
入山章栄・早稲田大大学院教授の連載「未来を拓(ひら)く経営理論」は、世界の経営学の知見をビジネスパーソンが実践できる形で分かりやすく紹介していきます。老舗酒蔵「新政酒造」(秋田市)の佐藤祐輔社長(47)の経営改革についての連載(じり貧から人気酒蔵に「新政酒造」の大逆転アトツギ、「新政酒造の大逆転」アートなアトツギの急進改革参照)は、今回が最終回です。
今でこそ「No.6」(ナンバーシックス)など個性あふれる日本酒を次々に生み出す新政酒造ですが、佐藤さんが入社した14年ほど前には債務超過目前の状態でした。ハードランディング型変革を裏側で支えた「父と子」の関係について考えます。
入山章栄の「未来を拓く経営理論」
フリージャーナリストなどさまざまな経験を経て、家業を継ぐ決意をした佐藤さん。2007年の暮れ、日本酒業界の再興を期して、実家のある秋田に帰郷すると、新政酒造が深刻な経営状態に陥っていることを知ります。
大手酒造会社が価格競争を仕掛ける中、安価なパック酒を手掛ける当時の新政酒造は毎年、多額の赤字を出していました。このままでは数年のうちに債務超過に陥ってしまう――。
そうした強烈な危機感の下、全国屈指の名門酒蔵だった新政酒造を立て直すため、佐藤さんは商品構成をすべて組み替えるというハードランディング型の変革を決意します。
他にはない「きれいな酸味があって甘みとのバランスの取れた日本酒」を作るため、まず着目したのは、昭和初期に新政が発見し、その後、日本全国で使われるようになった「6号酵母」。そこからわずか2年ほどで、次々に実験的な日本酒を造り出し、「No.6」「陽乃鳥(ひのとり)」「亜麻猫(あまねこ)」「天蛙(あまがえる)」といった現在の主力商品の原形もその頃に誕生しました。
会社を立て…
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