
「女、入れろ」。飲み会ではない。私が毎日新聞記者の下っ端だった1980年代後半、社会的な影響がある事件・事故が起きたりして、識者談話を取材する時、男性上司から時々言われた。
男性だけでなく、女性識者の話も聞け、ということ。「ジェンダー」という言葉が人口に膾炙(かいしゃ)しないころ、意識されただけましだったかもしれないが、「女を入れてやる」状態はずっと続いた。
そんな女性の扱いに小説の世界で変化が訪れたことは、この「メディア万華鏡」(2020年2月24日、「文壇に今も存在する?『女性への差別と偏見』とは」)で書いた。
文芸評論家の斎藤美奈子さんいわく、文学で書くべきテーマが尽きたと言われた90年代、「有形無形の壁にはばまれ、差別と偏見の中にいる女性たちには、書くべき材料がいくらでもあった」と。当時の旗手、桐野夏生さんは現在、日本ペンクラブ会長だ。
ノンフィクションの受賞続出
最近ではノンフィクションだ。大宅壮一ノンフィクション賞は、19年が河合香織さんの「選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子」(文芸春秋)、20年が小川さやかさんの「チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学」(春秋社)、21年が石井妙子さんの「女帝 小池百合子」(文芸春秋)と、3年連続で女性が受賞した。
佐々涼子さんの「エンド・オブ・ライフ」(集英社インターナショナル)は、ヤフーニュースと本屋大賞が連携して運営する20年のノンフィクション本大賞に選ばれ、平井美帆さんの「ソ連兵へ差し出された娘たち」(集英社)は21年の開高健ノンフィクション賞受賞と尽きず、女性の書き手がノンフィクションのテーマを…
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