
半導体「三国志」(5)
半導体受託生産会社(ファウンドリー)最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は、台湾では「護国神山」と呼ばれる。護国神山は3000メートル級の山が連なる中央山脈のことで、台湾を台風被害から守ることから、この呼び名が付けられた。近年、TSMCが経済をけん引するだけでなく、外交上でも切り札となってきた状況を踏まえ、同社の代名詞として使われるようになった。
だが、最近、米国の安全保障専門家の間で、TSMCの躍進が逆にリスクと認識されるようになってきた。深刻な半導体不足によって、中国がTSMCを支配下に収めようとする誘因が大きくなり、台湾を武力統一しようとする可能性が強まるとの見方が浮上しているのだ。
TSMCの工場を破壊する「焦土戦略」
昨年11月、米空軍大学のジャレッド・マッキニー博士らが米陸軍戦略大学の季刊誌「パラメーターズ」に論文を投稿した。論文で同氏らは、中国の台湾武力侵攻に備え、台湾当局自らがTSMCの生産設備を破壊し、技術者らを海外に脱出させる「焦土戦略」をあらかじめ策定しておくべきだと訴えた。
米中対立を受け、米国に半導体の輸入を規制された中国は、半導体を外国に依存することの危うさを痛感した。習近平政権は半導体自給率を2025年までに70%に引き上げる目標を掲げたが、20年時点で16%にとどまっている。技術的にも、世界の上位グループから後れを取っている。
そんな中国にとって、TSMCの魅力は増す一方だろう。マッキニー氏らは、もし中国が武力による台湾統一を試みれば、中国のIT産業も大きな打撃を受けると思い知らせることで、抑止効果を高めるのが狙いだ…
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