
ロシア軍によるウクライナ侵攻から1カ月半が過ぎた。戦火の終わりは見えないが、そんな中でも粛々と避難民を運び続けているのが現地の鉄道だ。そもそも戦争状態の中、鉄道による避難はどのように行われてきたのか。チェコ在住の鉄道ジャーナリストで、ウクライナから欧州各国へ向かう避難列車の取材にも当たってきた橋爪智之さん(48)に話を聞いた。
――ウクライナ国内から欧州への脱出ルートはどのような道のりになるのでしょうか。
◆首都のキーウ(キエフ)からだと、まずウクライナ西部の中継駅であるリビウに向かうのが主要なルートです。日本で言うと、東京から大阪までの道のりを考えてもらえばイメージしやすいでしょう。もちろん新幹線のような高速列車はありませんから、ロシア軍の侵攻前でも早くて5時間、おおむね6~8時間はみる必要がありました。
侵攻が起きてからはさらに時間がかかっています。この路線に限ったことではありませんが、避難民が殺到して想定より多くの人を列車に詰め込めば、速度を落として運行する必要がありますし、空襲警報などがあれば緊急停止を余儀なくされることもあります。私が聞いた限りでは、戦車が運行中の列車の前を横切っていったという話もありました。
――リビウから先はどうなるのでしょう。
◆南へ向かいハンガリーのブダペストなどを目指すルートもあるのですが、多くはそのまま西に進み、ポーランド側の国境近くの町、プシェミシルへたどり着きます。だいたい東京から熱海くらいの道のりで、ここを抜けるのは平時でも3時間以上はかかります。ウクライナとポーランドでは線路の幅が違うため、国際列車は台車(車輪の部分)の交換が必要になるケースがほとんどだからです。
この台車交換に時間がかかりすぎるというのもあり、避難列車の大半はプシェミシル駅まで引き込んだウクライナ側の線路を使っているようです。国境を越えてプシェミシル駅まで来てから、ポーランド側の列車に乗り換えるわけですね。私が3月5日に初めて訪れた際もそうでした。
――取材当時の様子を教えてください。
◆プシェミシルは人口7万人程度の小さな町です。駅もそれほど大きくなく、おそらく普段はのどかなところなのでしょう。それ…
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川村彰
経済プレミア編集部
1974年静岡県生まれ。広告記事等のフリーライターを経て、2015年4月、毎日新聞デジタルメディア局に配属。