
ロシア軍のウクライナ侵攻前、国境での兵力増強や事前工作を、米国はリアルタイムでつかみ積極的に公表した。年明け以降、米政府高官の「警鐘」のトーンは高まる。ワシントンで取材する鈴木一生記者(45)は、緊迫した情勢を日々記事にした。「いま振り返ると、米政府が公開した機密情報は驚くほど正確でした」と語る。
ロシアの工作員の動きを刻々と
年明けの1月14日、米ホワイトハウスのサキ大統領報道官は記者会見で、ロシアが工作員をウクライナ東部に配置している情報があると発表しました。サキ氏は平日はほぼ毎日、ホワイトハウスの会見室で約1時間、定例記者会見を開いています。
サキ氏は広報畑が長く、記者とのやりとりにはたけています。コロナに2度感染し、副報道官が代わりを務めました。会見には日本のメディアも参加でき、オンラインで世界中に配信しています。
サキ氏によると、市街戦や爆破工作の訓練を受けたロシアの工作員が、ウクライナ東部の親露派武装勢力に攻撃を仕掛ける可能性があるというのです。自作自演の攻撃です。ロシアがウクライナ侵攻の口実をでっちあげる目的で「偽旗工作(ファルス・フラッグ・オペレーション)」と呼ばれる偽装を準備しているとの指摘です。
さらにサキ氏は、ロシアがウクライナへの介入を正当化するニセ情報をネット上に流布する工作も活発に行っていると指摘しました。2014年にロシアがウクライナ南部クリミア半島を強制的に編入した際にも同様の工作が行われたと強調し、「ロシアは1月中旬から2月中旬に軍事侵攻に踏み切る可能性があり、その数週間前から(工作員らの)活動を開始する計画がある」と発言しています。
ロシア軍がウクライナに侵攻したのは2月24日です。1月中旬の時点で、米政権の公式なスポークスマンが、時期の幅はあるものの、機密情報に基づいて正確な情勢を公表していたことがわかります。
国防総省も「ロシアがニセ映像を制作」
国防総省のカービー報道官も2月3日の記者会見で、ロシアが「攻撃の口実を作るため、ロシア領がウクライナに攻撃されたかのように見せる(偽の)プロパガンダ映像を制作するとの情報を得た」と明らかにしました。
「ウクライナの攻撃で、ロシア領やウクライナ東部の親ロシア派の実効支配地域で死者が出て、関係者が嘆いている」という設定で、死体や演者を使うことも想定していると説明しました。カービー報道官は米海軍の軍人出身で、こちらも平日はほぼ連日、定例の記者会見をしています。
このように、ウクライナ国境周辺に増員されるロシア軍部隊の数や「偽旗工作」の疑惑に、ホワイトハウスや国防総省の高官が、記者会見などで日々言及していました。1月から2月にかけてです。
侵攻7日前のブリンケン長官演説
最も象徴的だったのは、ブリンケン国務長官が2月17日に行った国連安全保障理事会での演説です。「陸海空軍部隊…
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