
米政権によるウクライナ情勢に関する積極的な機密情報の公開について、ワシントンで取材する鈴木一生記者(45)が背景を探ります。クリミア半島をロシアに編入された失敗、イラク戦争時の誤り、そしてアフガニスタン撤収時の混乱。こうした過去を踏まえ、省庁横断で設置した専門家の「タイガーチーム」がカギを握っていると指摘します。
オバマ政権のつまずき
米政権が情報機関による機密情報を積極的に公開している背景の一つに、2014年のウクライナ危機の教訓があります。中央情報局(CIA)など情報当局は当時、オバマ政権が機密情報を同盟国などと共有することを阻止したとされています。
結果的にロシアによるウクライナ南部クリミア半島の一方的な編入を許すことになりました。バイデン政権は当時の失敗を研究したとされています。
イラク戦争では完全な誤り
また、ブリンケン国務長官は2月17日に行った国連安全保障理事会での演説で、あえて情報当局が収集・分析した情報を公表する理由を「米国の苦い歴史」を念頭に説明しています。
19年前の03年2月、パウエル国務長官(当時)が安保理で、情報当局が集めた衛星写真や盗聴会話を基に「イラクのフセイン政権が大量破壊兵器を所持しているのは間違いない」と主張しました。そして、米国はイラク戦争の開戦に踏み切りましたが、パウエル氏の出した「証拠」はその後、ほぼ完全に誤りだったと分かっています。
ブリンケン氏はこの日の演説で「情報が最終的に裏付けられなかった過去の事例から、米国の情報を疑問視する声があることも留意している」と説明しました。そのうえで、今回の米国の目的は「開戦のためでなく、戦争を阻止するためだ」と主張。「ロシアが侵攻せず、我々の予測が間違っていたと証明してくれれば、我々はほっとする。間違っていたとの批判も喜んで受け入れる」と強調しています。
アフガン撤収時の大混乱
さらに、21年8月にあったアフガンからの駐留米軍の撤収時の混乱も要因に挙げることができると思います。米情報機関はアフガンの首都カブールが早期に陥落することを予想しておらず、バイデン政権は予告通りの8月末の撤収にこだわりました。
しかし、撤収前にアフガン政権は崩壊し、イスラム主義組織タリバンが復権。国外退避を希望するアフガン人らがカブール国際空港に押し寄せるなど大混乱となり、バイデン政権の情報分析やその判断の甘さが露呈しました。
米軍に協力してきたアフガン人の多くを救出することなく現地に置き去りに。撤収の一時延期を要請した各国の声も聞かず、逃げ出すような形で米軍が引き揚げることになり、米国の国際社会での威信は大きく傷つきました。バイデン大統領の国内支持率もこの時を境目に大きく下落傾向となっています。
バイデン政権にとって危機対応をこれ以上失敗することは許されません。手の内を隠すのではなく「できる…
この記事は有料記事です。
残り487文字(全文1681文字)