特派員が見た米露情報戦争

「対トランプの苦い経験」露侵攻で米政権が生かす教訓

鈴木一生・ワシントン特派員
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演説する米国のトランプ前大統領=米中西部ネブラスカ州で2022年5月1日、AP
演説する米国のトランプ前大統領=米中西部ネブラスカ州で2022年5月1日、AP

 ワシントンで取材する毎日新聞の鈴木一生記者は、ロシア軍が2月にウクライナへ侵攻した際に「予測として出されていた情報を、現実が後追いしている感覚でした」と振り返る。米政権が侵攻をめぐる機密情報を先手先手で公開する背景には、トランプ前政権との対決で得た苦い教訓もあると見る。「根拠なき情報が拡散すると、覆すのは難しい」という経験だ。米政権の情報発信について鈴木記者に一問一答で聞く。

 ――ウクライナ侵攻に関する米政権の発表は、後で「正しかった」と裏付けられた情報が多かったですか。

 ◆予測として出されていた情報を、現実が後追いしている感覚がありました。ブリンケン国務長官が侵攻7日前の2月17日に行った国連安全保障理事会の演説で、「ミサイルがウクライナ全土に向けて発射される」「攻撃対象に首都キーウ(キエフ)も含まれている」と述べました。当時はそこまで言うのかと思いましたが、正しかったです。

 ――実際に「侵攻が始まる」と感じたのはどの時点ですか。

 ◆米国とロシアは侵攻直前まで外相会談の開催を模索していました。24日に予定されていたのですが、ブリンケン氏が22日の記者会見で、会談をとりやめると発表したのです。それまでは「最後まで外交の窓は開いている」と言っていたのが閉じてしまいました。そのときに「本当に来るかもしれない」と感じました。

公表内容に変化も

 ――米政府が公表する情報の内容は変わっていますか。

 ◆今はどんな武器をいつどれだけウクライナに提供したか、詳しく公表しています。当初から地対空ミサイル「スティンガー」や対戦車ミサイル「ジャベリン」を提供していましたが、武器名や数の公表は控えていました。米国内でもウクライナの惨状が連日報道されて、何とかしなければという世論があります。米国民向けのアピールの意味も大きいと思います。

 ――エスカレートするのが不安です。

 ◆軍事衝突を避けるために、どこがロシアのレッドラインかを見極めつつやっている感じはあります。危ういですけど。プーチン露大統領がどこに線を引くかわからないですからね。そのため、米国は大型兵器の供給には後ろ向きです。ただ、米国内に武器提供の慎重論はさほどありません。

政権に染みついた認識

 ――現政権が情報開示に積極的な背景は?

 ◆「いったん根拠のない情報が広がってしまったら、それを正すのは相当難しい」という認識が現政権にあります。

 前回の大統領選挙をめぐり「選挙が盗まれた」とのトランプ陣営の主張を、少なくない米国民がいまだに信じています。ニセ情報が広まる前に正しい情報を流さなければいけないとの考えがバイデン政権に染みついています。

 ロシアの偽装工作に対抗するため、手の内をさらす危険性がありながらも、広がる前に先につかんだ情報を公表しています。それはトランプ陣営からの攻撃で学んだ側面があると思います。

 ――積極公開…

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鈴木一生

ワシントン特派員

ワシントン特派員。横浜支局、東京社会部、福岡報道部、外信部兼政治部などを経て、2020年4月に北米総局へ着任。米国の外交・安全保障や社会問題などを追いかけている。過去には東京地検特捜部や裁判所、法務省、外務省などを担当した。