熊野英生の「けいざい新発見」

ロシア侵攻の経済損失を「石橋湛山の視点」で考える

熊野英生・第一生命経済研究所 首席エコノミスト
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石橋湛山元首相=1958年12月、東京本社写真部
石橋湛山元首相=1958年12月、東京本社写真部

 戦前の日本で、植民地であった満州と朝鮮半島の権益を捨てろと言った言論人がいた。戦後に首相を務めた石橋湛山である。

 この「満韓放棄論」は、植民地主義にこだわって日本が米英と対立しても何の利得もなく、むしろ自由貿易で経済利得を追求する方が、アジアにおいて日本に大きな経済メリットをもたらすという主張であった。

植民地主義vs自由貿易主義

 植民地主義の反対側にあるのは自由貿易主義だ。石橋湛山の反植民地主義は、経済的発展を座標軸にして考えるという発想から出発した、極めてエコノミスト的な考え方である。戦前の日本の、まだ自由な言論が許されていたころに、石橋湛山はこの議論を展開した。

 プーチン露大統領に石橋湛山の言葉を聞かせたい、と筆者は思う。ウクライナなど旧ソ連だった地域を自国に取り戻そうとしても、何の利得もなく、ロシア自身には巨大な経済損失しかもたらさない。

 かつて植民地を獲得しようとした軍国主義の日本がそうだったように、現在のロシアもまた国際社会から巨大な経済制裁を受け、経済成長率が劇的に下がっている。侵略のコストと言ってよい。ウクライナ侵攻は、ウクライナに多大な損害を負わせただけではなく、…

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熊野英生

第一生命経済研究所 首席エコノミスト

1967年山口県生まれ。横浜国立大学経済学部卒業。90年、日本銀行入行。調査統計局などを経て、2000年、第一生命経済研究所入社。11年4月から現職。専門は金融政策、財政政策、金融市場、経済統計。