経済プレミアインタビュー

ウクライナは所有物?「プーチン思考」を言語学で考える

川口雅浩・経済プレミア編集部
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ロシア軍による砲撃で破壊されたウクライナ軍の車両。死亡した乗員5人を追悼するために保存されていた=ウクライナ・ホストメリで2022年5月7日、三木幸治撮影
ロシア軍による砲撃で破壊されたウクライナ軍の車両。死亡した乗員5人を追悼するために保存されていた=ウクライナ・ホストメリで2022年5月7日、三木幸治撮影

ロシア語学者に聞くウクライナ侵攻(3)

 ロシアのプーチン大統領が「ロシア人とウクライナ人は一つの民族だ」と訴えながら、ウクライナ侵攻を続ける理由は何か。ロシア語が専門で両国の文化に詳しい井上幸義・上智大学名誉教授はロシアの共同体意識と、所有を表す言語表現になぞを解くカギがあると主張する。

 ――ロシアのウクライナ侵攻やプーチン氏の発言で、ロシア語学者として気になることはありますか。

 ◆ロシア語では「我々のところに何々がある」という言い方をよくします。日本語でも「我々には子供がいます」などと所有を表す表現です。ロシアで「我々のところ」と言うと、その中にあるものは共同体で、みんな一緒だという意識があります。

 この共同体の意識とは何か。これはリハチョフというロシア古代文学の大家が言っているのですが、ロシアは寒いうえに広いので、昔は冬場に馬車で移動すると命がけになる。村と村の距離がすごく長いので、隣の村まで行けるかわかりません。

 夜になり、宿までたどり着けないとなると、ロシア人は途中で見つけた知らない家の扉をたたく。そこの家の主人は知らない旅人であっても何も聞かずに一晩泊めて、ご飯を食べさせる。それが共同体の意識だって言うんです。そうしないと死んじゃいますから。

今なお生きるロシアの共同体意識

 ――その共同体の考えは今のロシア社会にも生きているのでしょうか。

 ◆その考えがロシア語の「我々のところでは」という表現に結び付いていると私は思います。ロシア人は共同体で助け合うという意識がすごく強い。でも、「我々のところ」という範囲がどこまでかわかりません。話し手の考えによります。

 帝政ロシアはコサックたちに命令して…

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川口雅浩

経済プレミア編集部

1964年生まれ。上智大ドイツ文学科卒。毎日新聞経済部で財務、経済産業、国土交通など中央官庁や日銀、金融業界、財界などを幅広く取材。共著に「破綻 北海道が凍てついた日々」(毎日新聞社)、「日本の技術は世界一」(新潮文庫)など。財政・金融のほか、原発や再生可能エネルギーなど環境エネルギー政策がライフワーク。19年5月から経済プレミア編集部。