
貿易赤字国から経常赤字国になる可能性も出てきた日本で、スパイラル的な円安の懸念がくすぶる。
ドル・円相場は2002年以来約20年ぶりの円安・ドル高水準となっている。
しかし、それは名目上の話。インフレ率の差を勘案し、かつ広範な日本の貿易相手国の通貨とのレートも考慮した、円の全体的な価値を示す実質実効レートで見ると、円は既に1971年以来、約50年ぶりの水準まで下落している(図1)。
円の弱さ、つまり円という通貨の購買力の低下は最近始まったことではなく、既にここ数年、長期的な現象として進行している。円が対ドルでは20年ぶりの安値なのに、実質実効レートでは50年ぶりの円安となっている背景の表面的な説明は簡単だ。貿易相手国の物価が上昇しているのに、円相場がそれを調整しなくなっているからだ。
例えば、米国の物価が日本の物価より大きく上昇する中、ドル・円相場が全く変わらなければ、米国から見た日本の物価は「割安」となる。これにより米国から日本への投資や日本からの輸入が増えた結果、円が買われ、円高方向に動き、日米間の物価水準の均衡が元に戻る。これが為替のメカニズムだ。
しかし、ここ数年、こうした調整が行われなくなっている。なぜか。単純にいえば、割安になっているにもかかわらず、外国企業も日本企業も日本に投資をしないからだ。だから円が実質的に割安のまま放置されているのだ。
企業の対外投資が倍増
背景の一つとなっているのは、日本企業による「キャピタルフライト(資本逃避)」、つまり、対外直接投資の急増である。日本企業が国外に出て行ったのは、2011年3月の東日本大震災を受けたサプライチェーンの見直し、その後の米国の保護主義的な動き、欧州の環境規制、日本国内の需要の弱さなど、さまざまな理由があるだろう。いずれにせよ、結果として日本企業の対外直接投資は13年以降急増し、それ以降の9年間でネットで…
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