けいざい多面鏡

国が台湾TSMCに「熊本とつくばで5000億円」出す意味

今沢真・経済プレミア編集長
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式典に出席したTSMCの魏哲家・最高経営責任者(左)=茨城県つくば市で2022年6月24日、今沢真撮影
式典に出席したTSMCの魏哲家・最高経営責任者(左)=茨城県つくば市で2022年6月24日、今沢真撮影

 日本政府が補助金190億円で誘致した台湾半導体企業TSMCの研究センターが茨城県つくば市に完成し、6月24日に式典が行われた。政府は同社の熊本工場建設にも、最大4760億円という前例のない巨額補助金を出す。「経済安保のカギ」と政府が位置づける半導体企業の誘致は成果を上げるのか。

 完成したのは「TSMCジャパン3DIC研究開発センター」。国立研究開発法人・産業技術総合研究所の敷地内にできた。TSMCの100%出資会社が、半導体の最先端製造技術の研究開発を行う。約380億円が投資され、政府がその半分を補助する。

 TSMCは世界の半導体産業のトップ企業だ。2021年の売上高は6兆6430億円と日本の電機大手並みだが、最終利益が約2兆4800億円と高収益ぶりが際立つ。その源泉は最先端の半導体微細技術だ。

 米インテル、韓国サムスン電子といった他のビッグネームに先駆け、TSMCは回路線幅を3ナノ(ナノは10億分の1)メートルまで縮めた半導体の量産を成功させた。アップルのiPhoneや任天堂のゲーム機などに同社製の最先端半導体がたっぷり使われている。

つくば市で何を研究開発する?

 TSMCが海外に技術開発センターを持つのは初めて。日本で何を開発するのか。日本人トップの江本裕センター長は次のように説明する。

 半導体の微細加工技術はかなり進んだ。今後さらなる技術革新も可能だが、兆円単位の巨額投資が必要になる。同センターでは「三次元実装」という、微細半導体を立体的に重ねて量産する技術に取り組む。他企業は実現していない画期的な技術だという。

 例えばパソコンに10ナノの半導体が使われているとする。それを5ナノ半導体に置き換え、立体的に重ねれば、これまでの数十倍や100倍といったまったく違うレベルの処理ができる。その「3DIC」を実現するためには素材や熱処理、製造装置の開発など、さまざまな試行が必要になる。それを同センターで行う。

 TSMCの研究開発には日本企業が20社以上参加する。素材、製造装置を担う日本企業と協力することで、日本の半導体産業の育成にも役立つというわけだ。

「熊本」とは連携せず

 とはいえ、台湾企業に巨額の補助金(国民の税金)を投入する見返りはどれほどあるのか。TSMCは同センターで開発した量産化技術を、台湾国内で建設する半導体製造工場で活用する予定だという。日本企業に…

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今沢真

経済プレミア編集長

1983年毎日新聞入社。89年経済部。日銀・財研キャップ、副部長を経て論説委員(財政担当)。15年経済プレミア創刊編集長。19年から同編集部。22年4月に再び編集長に。16年に出版した「東芝 不正会計 底なしの闇」(毎日新聞出版)がビジネス部門ベストセラーに。ほかに「東芝 終わりなき危機」など。16~18年度城西大非常勤講師。