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超円安なのに「輸出拡大」でもうけようとしない日本企業

熊野英生・第一生命経済研究所 首席エコノミスト
円安は輸出に有利なはずだが……(1ドル=135円台の為替相場を表示するモニター)=東京都港区の外為どっとコムで2022年6月15日、手塚耕一郎撮影
円安は輸出に有利なはずだが……(1ドル=135円台の為替相場を表示するモニター)=東京都港区の外為どっとコムで2022年6月15日、手塚耕一郎撮影

 現在の円安は長期化しそうである。その場合、日本経済にはどのような変化が起こるのだろうか。

 円安のメリットとして、製造業の国内回帰が起こり、貿易黒字が増えることはありうるだろう。逆にデメリットとして、海外投資家による日本企業の買収が活発化するかもしれない。輸入物価の上昇は困るが、企業にとっては外資に買収されるリスクも怖いのではないか。

 時価総額100億円の企業は、1ドル=100円の時は1億ドルの買収コストだったものが、1ドル=135円になれば、約7400万ドルに下がる。円安によって、日本企業の買収コストが下がるのは不都合なことだと思える。

日本は「お買い得」ではない

 では海外投資家にとって、日本企業は本当に「お買い得」なのだろうか。投資の評価は、投資リターンが十分に高いかどうかで変わってくる。

 海外投資家による日本への投資資金の流れをみると、対日株式投資は2014年をピークに、極めて低調である。

 安倍晋三首相が就任した当初の13~14年は、アベノミクスという言葉が流行し、このときの対日株式投資は年間15兆円まで膨らんだ。ところが、18~20年は平均すると売り越しになり、21年は買い越しに転じたものの2兆円程度の少ない額だった。14年を境に対日株式投資は低迷しているのが実情である。

 日本への実物投資を表す対内直接投資も、ここ数年間は年間2兆~8兆円と多くない。海外企業の日本進出は、…

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第一生命経済研究所 首席エコノミスト

1967年山口県生まれ。横浜国立大学経済学部卒業。90年、日本銀行入行。調査統計局などを経て、2000年、第一生命経済研究所入社。11年4月から現職。専門は金融政策、財政政策、金融市場、経済統計。