近藤伸二のアジア新潮流

米ペロシ下院議長「訪台に込めたもう一つの目的」とは

近藤伸二・ジャーナリスト
  • 文字
  • 印刷
台湾の蔡英文総統(右)と会談するナンシー・ペロシ米下院議長=台北で3日(台湾総統府提供・AP)
台湾の蔡英文総統(右)と会談するナンシー・ペロシ米下院議長=台北で3日(台湾総統府提供・AP)

 米国のペロシ下院議長の台湾訪問に反発する中国が8月4日から大規模な軍事演習を実施し、台湾海峡が緊迫の度を増している。ペロシ氏は中国の強硬な反対を押し切って訪台した理由について「台湾の民主主義を支援するため」との声明を発表したが、発言や行動を精査すると、「米国の半導体産業強化」というもう一つの目的が浮かび上がる。

 米下院はペロシ氏訪台前の7月28日、半導体の製造や研究に527億ドル(約7兆円)の補助金を投入する法案を可決した。バイデン大統領の署名で成立する。半導体受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は米政府の強い要請もあって120億ドルをかけてアリゾナ州で工場建設を進めており、補助の対象になるのは確実だ。

ペロシ氏との昼食会にTSMCから2人

 バイデン氏は昨年、半導体サプライチェーン(供給網)を見直す大統領令に署名し、半導体製造強化に500億ドル規模を投じる方針を表明した。だが、裏付けとなる法案の審議は、野党・共和党の反対などで大幅に遅れていた。TSMC創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏らも早期成立を繰り返し求める中、与党・民主党のペロシ氏にすれば、ようやく政権の要望に応えたことになる。

 8月2日夜に台湾に到着したペロシ氏は翌3日朝、立法院(国会)を訪れた。台湾側の参加者に対し、同行している5人の議員を「半導体の法案成立に共同で貢献してくれた」と紹介した。

 蔡英文総統との会談後の共同記者会見では、ペロシ氏は新法について「これによって米台の経済交流の扉が開かれる」とアピールした。続いて開かれた蔡氏主催の昼食会には、TSMCから張氏と劉徳音会長が招かれた。1企業から2人参加するのは異例で、米台両政府のTSMCへの気遣いがうかがえる。

TSMC会長がCNNに語った中身

 米紙ワシントン・ポストは、ペロシ氏が台湾滞在中、劉氏と会談して意見交換するとの見通しを伝えていた。TSMCは、会談は行われなかったと明らかにしたが、劉氏はペロシ氏訪台に合わせて米CNNテレビのインタビューを受けた。その中でTSMC関係者として初めて台湾有事に関する考えを述べている。

 劉氏は、中国が台湾に軍事侵攻してTSMCの工場を接収したとしても、「製造工程は複雑で、原料や化学物質、設備、部…

この記事は有料記事です。

残り551文字(全文1497文字)

近藤伸二

ジャーナリスト

 1956年神戸市生まれ。79年毎日新聞社入社。香港支局長、台北支局長、大阪経済部長、論説副委員長などを歴任。2014年追手門学院大学教授。22年3月に退職し、その後、ジャーナリストとして活動。著書に「彭明敏 蔣介石と闘った台湾人」「アジア実力派企業のカリスマ創業者」など。