熊野英生の「けいざい新発見」 フォロー

「インフレでも人々は貯蓄」岸田首相に求める脱不況策

熊野英生・第一生命経済研究所 首席エコノミスト
記者団の質問に答える岸田文雄首相=首相官邸で2022年9月6日、竹内幹撮影
記者団の質問に答える岸田文雄首相=首相官邸で2022年9月6日、竹内幹撮影

 ある著名な経済学者はかつて、「インフレが起きると、買い急ぎが消費支出をより増やすだろう」と話していた。昔の話だが、筆者は直感的に間違っていると思っていた。

 最近になり、日本でもインフレが起きたことで、この説が本当かどうかをデータで確かめることができた。実際には、インフレが加速した4月以降の消費性向は依然として低く、貯蓄率は高かった。

防衛手段は貯蓄を増やすこと

 少し考えればわかることだが、現在のインフレは主に食料品とエネルギー価格の上昇で起きている。食料品の値段が上がるから買いだめをするとしても限界がある。エネルギーに関しても、ガソリンや灯油の買いだめもやはり無理があるし、電気代やガス代については不可能だ。

 人々にできることは、将来の生活コスト増加分を今のうちに貯蓄しておくことだ。つまり、消費支出は増えるのではなく逆に減っていき、貯蓄が増えるのだ。インフレになると貯蓄の価値は目減りしてしまう。それは困るが、それでも減っていくペース以上にためるしかないということなのだろう。

 インフレの目減り分は、本来は預金金利でカバーできるという考え方もできる。しかし、日本の預金金利は低い。1970年代の石油危機の時ほどの高い金利は付かない。だから、インフレに対して価値を守る力が低い。

 7月の消費者物価(総合)は2.6%の上昇だが、帰属家賃(持ち家がある人のみなし家賃)を除いて、より実態に近づけ…

この記事は有料記事です。

残り1019文字(全文1617文字)

第一生命経済研究所 首席エコノミスト

1967年山口県生まれ。横浜国立大学経済学部卒業。90年、日本銀行入行。調査統計局などを経て、2000年、第一生命経済研究所入社。11年4月から現職。専門は金融政策、財政政策、金融市場、経済統計。