
安倍晋三元首相の国葬は賛否が分かれ、国民の分断という大きな問題を引き起こした。その陰で9月27日、会場の日本武道館では他の問題が起きていた。
トイレ問題。男性用トイレにだけ大行列ができていたというのだ。現場からツイートした取材記者もいた。ウェブニュースサイト「NEWSポストセブン」は同日、「武道館で『トイレ問題』発生中」との記事を配信。ネットで拡散した。
記事によると、ライブなど催し物の時、女性用トイレに長い行列ができるのはよくある。が、国葬では、女性用トイレには一人も並んでいないのに、男性用トイレにだけ行列ができた。午後1時、その数50人。行列を見て「これはまずい……」とこぼしたり、空いているトイレの情報交換をしたりする政治家がいたという。
日本武道館は、東京オリンピック・パラリンピックに向けた一昨年の改修で、女性用トイレを大幅に増やした。もちろん、ゆえに男性用に大行列ができたのではない。国葬に招待されるような“日本の偉い人々”はほとんど男性だからだ。先進国にあるまじきジェンダーギャップ指数の日本社会を図らずも映し出した。
政治家は何を「まずい……」と思ったのか。女性参列者の少なさが示すところに気づいたなら、国葬をやった意味は少しあったかも。でも違う。漏らしそうになっただけだろう。
差別と結びつく「トイレ」
トイレは、差別と深く結びついている。
思い出すのは、米映画「ドリーム」(2017年日本公開)。冷戦時代の1960年代、米航空宇宙局(NASA)の研究所で有能な黒人女性スタッフが白人男性ばかりの職場で人種・女性差別と闘いながら、月面への有人飛行計画に貢献する姿を描く。
主人公の女性は時々、長時間席をはずすことを男性上司に叱責される。遠く離れた非白人用トイレに行かねばならないからだ。彼女は差別を訴える。上司はトイレに行き、ハンマーで非白人用と表示された看板をぶっ壊し、「差別はない」と宣言する。出来過ぎの感があるほどの場面だ。
90年、私は毎日新聞政治部に配属となった。当時、国会議事堂内の参院には女性専用トイレがなく男性用トイレの一角を囲っていた。官邸記者クラブにも…
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