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日本の金融所得は誰が保有?「財務省データ」のリアル

渡辺精一・経済プレミア編集部
 
 

 金融所得課税の見直しは近年、税制改正の焦点となっている。所得に占める所得税額の割合(負担率)は、所得が1億円を超えるとかえって下がる「1億円の壁」があり、税制が富裕層を優遇しているとして問題視する声が強いためだ。それでは、富裕層はどのような手段で所得を得ており、所得の偏りはどのくらいあるのだろうか。税制改革の議論の前提として、財務省が初の分析データを示した。

富裕層ほど下がる「実質税率」

 個人が給与や商売の利益などを得ると、所得税がかかる。所得税は、ある人が得た所得を合計して課税する「総合課税」が原則で、所得が高いほど税率が上がる7段階(5~45%)の累進課税だ。さらに、住民税は個人所得に原則10%(所得割り)を課す。つまり所得税と住民税を合わせた実質的な最高税率は55%となる。

 だが、実際には、所得が高くなればなるほど、税負担が増えるわけでもない。

 国税庁の2020年「申告所得税標本調査」で、合計所得金額に占める所得税額の負担率をみると、合計所得金額が「5000万円超1億円以下」での負担率27.1%をピークとし、これを境に所得が高くなると負担率は逆に下がる。これは「1億円の壁」と呼ばれる。

 「1億円の壁」ができる要因は、金融所得課税のあり方が大きいとみられている。

 所得のなかでも、株式譲渡益(キャピタルゲイン)、利子所得、配当所得などの金融所得は、他の所得と切り離して課税する「分離課税」方式を採る。金融資産の海外逃避を防ぎ、課税の簡潔さや中立性・効率性を保つのが狙いとされる。

 金融所得の税率は、所得の額に関わらず一律で、所得税15%(復興特別所得税含まず)、住民税5%の計20%だ。所得税の最高税率55%と比べ負担は軽くなる。

 高所得者層ほど一般に、所得に占める金融所得の割合が大きいため、実質的に所得税の負担率を下げることができる。これが「1億円の壁」を生み出していると考えられる。

 こうしたことから、金融所得課税が富裕層を優遇しているとして、公平性の観点から、見直し議論が浮上している。21年12月の与党税制改正大綱は「検討する必要がある」と明記し、岸田文雄首相は「議論を続けていきたい」とする見解を示している。

富裕層の所得の源泉は「非上場株式の譲渡益」

 ただし、所得1億円超の層が、実際にどのような手段で所得を得ているのかについては、これまで明確なデータは示されていなかった。政府の税制調査会(首相の諮問機関)では、見直し…

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経済プレミア編集部

1963年生まれ。一橋大学社会学部卒、86年毎日新聞社入社。大阪社会部・経済部、エコノミスト編集次長、川崎支局長などを経て、2014年から生活報道部で生活経済専門記者。18年4月から現職。ファイナンシャルプランナー資格(CFP認定者、1級FP技能士)も保有。