
今年のノーベル賞の発表で、「おお、この人!」と思った受賞者が2人いた。ひとりは2度目のノーベル化学賞に輝いた米スクリプス研究所のバリー・シャープレスさん。
つい最近、どこかで見かけたと思ったら、前回の本欄で紹介したイグ・ノーベル賞の授賞式で、日本人受賞者の松崎元さん(千葉工業大学のデザイン研究者)の求めに応じ、とまどいつつ自分の鼻を指でひねっていた人物だった。
印象は人のよさそうなおじさん。不覚にもその天才ぶりには気づかなかったが、1度目は2001年、名古屋大特別教授の野依良治さんらとの共同受賞で、テーマは「不斉合成」だった。
シャープレスさんがすごいのは、この後、研究分野をさっさと変えて、複雑な構造をした分子を簡単に効率良く作り出す「クリックケミストリー」で2度目の受賞を果たしたことだ。ベルトのバックルをカチッ(クリック)としめるように、基本的な分子同士をカチッと結合させることで、簡単に目的の物質だけを作る手法を開発した。
ノーベル財団のインタビューに「一見、ばかげて見えるアイデアでなければ見込みがない」というアインシュタインの言葉を引いているところからして、チャレンジ精神にあふれた人なのだろう。
進化研究にノーベル賞は予想外
そしてもう1人、私が「おお!」と思ったのは医学生理学賞の受賞者、独マックスプランク進化人類学研究所教授で沖縄科学技術大学院大の客員教授も務めるスバンテ・ペーボさんだ。受賞テーマは「絶滅したヒト族のゲノムと人類の進化に関する発見」。
ペーボさんには15年の夏、京都大学で講演した折にインタビューさせてもらったことがある。ネアンデルタール人など古代人ゲノムの解析で、すでにスター科学者だったが、物腰が柔らかく、親切。質問にも丁寧に応じてもらい、すっかりファンになった。その後、さまざまな賞も受賞している。
だが、実をいえばノーベル賞受賞は予想していなかった。
なぜ意外だったか。歴代の医学生理学賞は…
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