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売り上げ増なくして「賃金アップなし」の現実を学ぶ

熊野英生・第一生命経済研究所 首席エコノミスト
日本の賃金はなかなか上がらない……(傘を手に通勤する人たち)=東京都千代田区で2020年3月22日、幾島健太郎撮影
日本の賃金はなかなか上がらない……(傘を手に通勤する人たち)=東京都千代田区で2020年3月22日、幾島健太郎撮影

 政府は10月中に総合経済対策をまとめて、発表する方針だ。物価高や円安対策、賃上げの促進などが中心になるとみられる。国民が感じている痛みに対して、政府も努力をするということだ。

 筆者が考える、日本経済のためにやるべきこととは「賃金上昇」と「円安是正」の二つだ。ただ正直に言えば、やるべきことは明らかなのに、その具体的な解決法は総合経済対策では描かれそうにないと予想する。

賃金が大きく伸びた業種はどこか

 賃上げに関しては、政府は実現するための直接的な手段を持っていない。できるとしても、公務員給与の引き上げや、介護・医療従事者への報酬見直しくらいで、民間企業の賃上げは、政府が自由にコントロールできるものではない。

 では、最近はどの業種が実際に1人当たり人件費を増やしているのか、財務省の「法人企業統計」を使って調べてみた。

 データは2022年4~6月が直近値になる。季節性を排除するため、4四半期を累計して、21年7~9月から22年4~6月の1年間の1人当たり人件費を計算し、コロナ禍前の3年前と比べて伸び率を求めた。

 伸び率の上位ランキングは(1)金属製品製造業8.2%(2)農業、林業7.3%(3)情報通信機械器具製造業7.1%――であった。全産業の平均は0.2%である。

 人件費が大きく伸びた業種は、いずれも売り上げ増が起きている。同時に、原価も増加しているので、原料など仕入れコストが高騰…

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第一生命経済研究所 首席エコノミスト

1967年山口県生まれ。横浜国立大学経済学部卒業。90年、日本銀行入行。調査統計局などを経て、2000年、第一生命経済研究所入社。11年4月から現職。専門は金融政策、財政政策、金融市場、経済統計。