
「岸田政権は原発に前のめり」「原子力政策はいったん始めると止まらない」。岸田文雄首相が原発の新増設や運転期間の延長など原子力政策の見直しを指示し、年末に向けた政府内の議論が注目されている。議論の中心となる経済産業相の諮問機関「総合資源エネルギー調査会」でこのほど、有識者からこんな苦言が相次いだ。
同調査会が11月15日、各界の有識者4人を呼んでヒアリングを行ったところ、原発推進の経産省の審議会としては珍しく3人が脱原発を主張し、岸田政権に慎重な対応を求めた。一体どんな主張だったのか。
同調査会の基本政策分科会が意見を聞いたのは、環境ジャーナリストで大学院大学至善館教授の枝広淳子氏、日本原子力研究開発機構理事の大島宏之氏、朝日新聞論説委員の五郎丸健一氏、NPO法人・原子力資料情報室事務局長の松久保肇氏の4人だ。
有識者4人のうち3人が苦言
枝広氏は「福島の原発事故がなかったかのようにエネルギー政策を考えてはならない。政府は最近、原発に前のめりになっている印象が否めない。核廃棄物処理のめどがない原発の新増設や運転延長はすべきでない」と主張した。
岸田政権の原子力政策見直しについて、枝広氏は「国民不在の原発・エネルギー政策づくりになっている。しっかりした説明もなく、原子力政策が決まっていくことへ国民の不信感がある。国民が冷静に話し合える場が必要だ」と述べた。
大島氏は「原子力は大量かつ安定的にカーボンフリーの電力を供給できる。原子力を進める以上は、ウラン資源の利用効率アップを実現し、高い安全性を有する高速炉サイクルの実用化が不可欠だ」とし、政府が「次世代革新炉」と呼ぶ高速炉の開発を急ぐべきだと主張した。
高速炉について、大島氏は「核燃料をリサイクルすることができ、海外の情勢に左右されない安定したエネルギー供給ができる。原子力の泣きどころである高レベル放射性廃棄物を高速炉で燃やすこともでき、廃棄物の量を減らすことができる」などと、開発の意義を説いた。
「全体として行き詰まっているのは明白」
五郎丸氏は「原発を積極活用しようとするのなら、長年指摘されてきた数々の課題や疑問に正面から向き合い、解決の道筋を示す責務がある。課題の一つは安全性の確保だ。古い設備を長く使えば安全面で不確実性やリスクが高まる。日本は地震、津波、火山噴火など自然災害のリスクが高い。原発活用に動く諸外国と同列に論じられない特殊性がある」と主張した。
さらに五郎丸氏は…
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