
会社員のA夫さん(60)は定年退職後、再雇用で働いています。公的年金は繰り下げ受給すると年金額が増額されると知り、健康なうちは働き続け、受給開始時期はできるだけ遅らせるつもりでした。
ところが、同い年の妻は、男性の平均寿命が女性より短いことを挙げ「あなたが万一、増額の元を取る前に亡くなってしまうと、年金のもらい損になる」といいます。A夫さんはそれも一理あると考え、繰り下げ受給の損得について知りたいと相談に訪れました。
繰り下げはまだ「少数派」
公的年金の受給開始は原則65歳ですが、希望すれば受給開始時期を自分で選ぶことができます。以前は「60歳から70歳まで」の間で選べましたが、制度改正で2022年4月から繰り下げ受給の上限年齢を5年延長し「60歳から75歳まで」に広げました。
年金額は、受給開始を1カ月繰り上げるごとに0.4%減り、逆に1カ月繰り下げるごとに0.7%増えます。繰り上げは、基礎年金と厚生年金を同時に行わなければなりませんが、繰り下げはそれぞれ別々に行うことができます。
厚生労働省の19年度「厚生年金保険・国民年金事業年報」によると、繰り上げ受給をしている人は国民年金が12.4%、厚生年金が0.4%。逆に、繰り下げ受給をしている人は国民年金1.5%、厚生年金0.9%です。年金の繰り下げは以前より知られるようになってきましたが、実際に行っている人はまだ少数派です。
損益分岐点は約12年
終身受け取ることができる公的年金は、国民が保険料を出し合って、長生きリスクに備える「保険」です。本来、損得で考えるものではありません。し…
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