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インフレと円安を「賃金上昇」につなげる道筋はある?

熊野英生・第一生命経済研究所 首席エコノミスト
これから賃金は上がっていくのか……=東京都千代田区で2022年10月6日、幾島健太郎撮影
これから賃金は上がっていくのか……=東京都千代田区で2022年10月6日、幾島健太郎撮影

 企業収益は予想外に好調だ。財務省の法人企業統計によると、2022年4~6月期までの3四半期で経常利益が25%も増えている。22年3月以降の急速な円安も利益を押し上げた。

 インフレが進むなか、多くの企業は価格転嫁に苦しみ、収益率を低下させているのではないかという先入観が筆者にはあった。だが現実は逆で、価格転嫁が進んだ結果として、増益幅が厚くなっている。22年9月中間決算でも、過去最高益を更新する企業が相次いだ。これはインフレを通じた利益増という見方もできる。

余剰資金が投資に回り始める

 では、インフレでかさ上げされた利益はどこに回っていくのだろうか。過去と同じように企業の金余りをさらに積み上げるだけなのであろうか。

 企業による預金の残高を調べてみた。日銀のマネーストック統計によると、現金・預金(M2+CD)の法人保有分はコロナ禍で急増した。直近(22年9月)の残高395兆円は、コロナ前(19年12月)に比べて77.7兆円も増加している。

 ただ、インフレが急伸した22年4~9月は残高がほとんど横ばいだった。利息がほとんどゼロの預金を手元に置いておくと、実質価値が目減りしていくからだろう。企業にとっては、もうけた資金をキャッシュで持つより、収益を生み出す資産へと投資する方が合理的になっていく。

 つまりインフレは、現金・預金を保有する「機会費用(逸失利益)」をより大きく感じさせることに…

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第一生命経済研究所 首席エコノミスト

1967年山口県生まれ。横浜国立大学経済学部卒業。90年、日本銀行入行。調査統計局などを経て、2000年、第一生命経済研究所入社。11年4月から現職。専門は金融政策、財政政策、金融市場、経済統計。