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高齢者の資産管理で脚光「民事信託」万能論に危うさ

渡辺精一・経済プレミア編集部
 
 

 高齢者の財産管理の手法として「民事信託」が注目されている。財産を信頼する家族らに託すもので、成年後見制度より柔軟に活用できるメリットがあり、期待が集まる。だが、民事信託は、財産を託された家族が相続人となるケースが多く、自らに利益誘導する「濫用」の可能性があるなど課題も多い。メディアなどで取り上げられ周知度が高まっているが、法律専門家には「成年後見より民事信託という思い込みは禁物だ」と危惧する声がある。

法改正でにわかに脚光

 信託は、財産を持つ人(委託者)が信頼する人(受託者)に財産を託して管理してもらい、その利益を定められた人(受益者)へ渡す仕組みだ。

 信託銀行などは、顧客の受託者となって財産を管理運用する信託業務を行っている。こうした営利目的の信託を「商事信託」という。

 だが、営利目的でなければ原則として誰でも受託者になれる。非営利の信託は「民事信託」、なかでも家族が受託者となるものは「家族信託」の呼び名が定着してきた。

 日本の信託制度は長らく商事信託中心の法設計だったが、2007年施行の改正信託法で見直し、民事信託の使い勝手が高まった。

 民事信託は柔軟な財産管理や遺産承継ができる手法としてにわかに脚光を浴びている。

 この背景には高齢者の資産管理が深刻な問題になっていることがある。

 厚生労働省によると、25年には高齢者の5人に1人にあたる700万人が認知症になると見込まれる。認知症になると資産があっても管理ができなくなるため、判断能力のあるうちに、そのリスクに備える必要がある。

 公的な仕組みには成年後見制度の「任意後見」がある。判断能力があるうちに信頼できる人を…

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経済プレミア編集部

1963年生まれ。一橋大学社会学部卒、86年毎日新聞社入社。大阪社会部・経済部、エコノミスト編集次長、川崎支局長などを経て、2014年から生活報道部で生活経済専門記者。18年4月から現職。ファイナンシャルプランナー資格(CFP認定者、1級FP技能士)も保有。