
金融所得課税の見直しは近年、税制改正の焦点となってきた。税制では年間所得が1億円を超えると所得税の負担率が下がる「1億円の壁」がある。富裕層優遇として問題視する声が強く、与党税制改正大綱は毎年「検討課題」に掲げてきたが、2022年12月に公表された23年度大綱ではその文面が消えた。何があったのか――。
富裕層ほど下がる「実質税率」
まず、金融所得課税をめぐり、課題となるポイントを整理しよう。
個人が給与や商売の利益などを得ると所得税がかかる。所得税は、得た所得を合計して課税する「総合課税」が原則で、所得が高いほど税率が上がる7段階(5~45%)の累進課税だ。さらに住民税は個人所得に原則10%(所得割)を課す。つまり所得税と住民税を合わせた実質的な最高税率は55%になる。
だが、現実には、所得が高くなるほど税負担が増すわけではない。国税庁の20年「申告所得税標本調査」で合計所得と負担率の関係をみると、合計所得「5000万円超1億円以下」が負担率27.1%とピークで、これを境に所得が高くなると負担率は下がる。これが「1億円の壁」だ。
「1億円の壁」ができる要因には、金融所得課税の仕組みがある。
所得のなかでも株式譲渡益(キャピタルゲイン)、利子所得、配当所得などの金融所得は、他の所得と切り離して課税する「分離課税」だ。金融資産の海外逃避を防ぎ、課税の簡潔さを保つことなどが理由だ。
金融所得は、所得の額に関わらず一律税率で、所得税15%(復興特別所得税含まず)、住民税5%の計20%。所得税の最高税率55%と比べると負担は軽くなる。一般に、高所得者ほど所得に占める金融所得の割合は大きくなるため、実質的に所得税の負担率が下がる。これが「1億円の壁」を生み出している。
こうした金融所得課税のあり方は、富裕層優遇につながり、税の再分配効果をゆがめるため、見直し議論が浮上した。与党税調は16年度大綱で「税負担の垂直的な公平性を確保する観点から検討する」とし、その後も毎年、検討課題に掲げてきた。
富裕層の所得の源泉は「非上場株式の譲渡益」
だが、23年度大綱からはこの文面が消えた。
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