
相続と贈与とでは、親から子へ財産を渡すのが「死後か生前か」という時期の違いだけだが、税の体系が異なる。このため、子になかなかお金が回らない一方、富裕層には相続税逃れの抜け道があるなどの問題がある。その対応として、税制改正で「税の一体化」が一歩前進することになった。相続対策への影響は必至で、2023年は生前贈与ラッシュが予想される。
相続・贈与税の「二つの問題」
相続税は、亡くなった人(被相続人)の財産を受け継ぐ人(相続人)に課し、贈与税は、個人から財産を譲り受けた人に課す。贈与税は1年間に受けた財産の合計額から基礎控除110万円を引いた額に課税する「暦年課税」が基本だ。
ともに財産額が多いほど税率が高い累進課税だが、税率は贈与税のほうが高い。富裕層が生前贈与をすることで相続税を逃れるのを防ぐのが狙いだ。
例えば、課税対象資産3000万円の場合、相続税の税率は15%だが、贈与税(祖父母や親から孫・子への特定贈与)は45%になる。
だが、こうした相続税・贈与税のあり方には、近年、二つの大きな問題が指摘されている。
第一に、高齢化が進むなか、親から子へお金を引き継ぐ時期が遅れていることだ。
相続税申告で被相続人が80歳以上の件数は、1989年は全体の39%だったが19年には72%に高まった。相続人となる子の大半は引退間近の50代以上だ。
こうした「老老相続」が増え、世代間の資産移転が進みにくくなった。日本の個人金融資産のうち60歳以上が保有する割合は99年の45%から19年には65%に高まった。
このため、むしろ生前贈与を促して、高齢者の資産を若い世代に早めに移転させるべきだという意見が強まった。教育費や住宅資金などにお金がかかる30~40代に資金が移れば有効活用され、余裕ができた分は消費も増え、経済活性化につながる。
第二の問題は、税率は贈与税のほうが高いとはいえ、一部の富裕層に限れば、財産を分割して生前贈与することで、実質的に相続税より贈与税の税率を低くできる抜け道があることだ。
例えば、相続財産6億円超の場合、相続税は最高税率の55%になる。ところが、孫や子1人に年500万円を贈るとその贈与税は同48万5000円となり実効税率9.7%で済む。4人の子や孫に10年間…
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