
核融合で投入した以上のエネルギーを発生させることに成功した――。2022年12月13日、米エネルギー省と傘下の国家核安全保障局が大々的に発表したニュースが世界を駆け巡った。
記者会見では「歴史的な成功」「60年以上にわたる研究・開発の成果」「二酸化炭素を出さないクリーンなエネルギーにつながる」といった称賛の言葉が繰り返された。
日本のメディアも「気候変動やエネルギー問題を一気に解決する可能性を秘めている」「核融合発電に一歩近づいた」などと一斉に報じた。
でも、ちょっと待って。これはクリーンな発電への一歩として手放しで喜べるような成果なのだろうか。
核融合は太陽など恒星の内部で起きている反応だ。このため、核融合炉は「地上に太陽を作る試み」とも言われてきた。その方式にはレーザーを使う方法と、磁場を使う方法があり、今回の実験はレーザー方式によるものだ。科学の観点からは確かにブレークスルーかもしれない。
ただ、その成果は発電用核融合炉の実現からはほど遠い。関係者も商業発電が可能になるまでにはいくつもの重要なハードルがあることを認めていた。会見でも「実用化まで50年と言ってきたが、それより短縮できるかもしれない」と述べている程度だ。
核抑止の役割を強調
一方で注目したいのは、会見でも何度か触れられた「核抑止」という言葉だ。
そもそも、今回の実験を実施したのはカリフォルニア州にあるローレンス・リバモア国立研究所の「国立点火施設(NIF)」だ。
この研究所はニューメキシコ州のロスアラモス国立研究所と並ぶ核兵器開発・研究の拠点で、一時は「水爆の父」とも言われるエドワード・テラー氏が所長を務めていた。原爆は核分裂を利用した核兵器、水爆は核融合も利用する核兵器だ。
さらに発表の主体が国家核安全保障局(NNSA)である点も見逃せない。その名の通り核兵器を管理する部門で、臨界前核実験など核兵器の性能確認のための…
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