
ソフトバンクグループの経営の実態(19)
孫正義会長兼社長が率いるソフトバンクグループが、傘下の米ナスダック上場の特別買収目的会社「SVFインベストメント」を清算すると発表した。上場を廃止し、1月27日に業務を停止する。特別買収目的会社は「SPAC(スパック)」と呼ばれる。事業のない「空箱」を上場し、新興企業と合併させる手法で、米国の新規株式公開(IPO)ブームの火付け役だった。なぜソフトバンクグループは「手じまい」せざるをえなかったのか。
ソフトバンクグループは傘下の投資運用会社SBインベストメント・アドバイザーズを通じて、3社の特別買収目的会社を設立した。「SVFインベストメント」はその1社で、2021年1月にナスダック市場に上場した。
同社の新規株式公開の価格は1ユニット(株式と新株予約権)当たり10ドルで、5億2500万ドル(約680億円)を調達した。上場初日の終値は12ドルだった。21年2月には14ドル台まで上昇したが、優良な合併先が見つからなかった。現在は10ドル台で推移している。
合併先を見つけられず清算
特別買収目的会社は上場後2年以内に合併先を見つけるのが一般的だ。見つからなければ清算する。清算時には信託口座に預けられた資金を投資家に償還し、投資家を保護する仕組みだ。
SVFインベストメントは昨年12月30日時点で信託口座の残高が約6億1263万ドルあり、1株当たり約10.15ドルを株主に償還する予定だ。
ソフトバンクグループ傘下の特別買収目的会社の2社目である「SVFインベストメント2」は21年3月にナスダック市場に上場した。こちらも合併先が見つからずまもなく2年になる。
3社のうち唯一、合併先を見つけたのが「SVFインベストメント3」だ。22年6月に物流施設の自動化技術を提供する新興企業の米シンボティックと合併した。米小売り大手ウォルマートがシンボティックの自動化技術を導入したことで有名で、合併直後のピーク時からは下落しているものの株価は堅調に推移している。
実体のない「空箱」
特別買収目的会社は、上場で資金を集め、買収先を探して合併することを目的とする。もとは実体のない「空っぽの箱」でしかなく、合併先の企業があって初めて実体が伴う。
業績の裏付けはなく、設立者の目利き力が投資家のよりどころとなる。この「空箱」に、コロナ対応の金融緩和で生じた投機マネーが集まった。
投資評価の一つが有名人の関与だ。例えば米国の元プロスポーツ選手のシャキ―ル・オニール氏やアレックス・ロドリゲス氏らスーパースターが出資する特別買収目的会社が登場し、ブームを後押しした。ロドリゲス氏は特別買収目的会社の最高経営責任者も務めてい…
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