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マスクいらない?岸田首相の「コロナ5類移行」で考えた

青野由利・客員編集委員
新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけについて記者団の質問に答える岸田文雄首相=首相官邸で2023年1月20日、竹内幹撮影
新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけについて記者団の質問に答える岸田文雄首相=首相官邸で2023年1月20日、竹内幹撮影

 もしかすると「個人の判断ではありますが、マスクは原則不要です」などと言われる場面が出てくるのだろうか。

 政府は新型コロナウイルスの感染症法の位置づけを、5月に季節性インフルエンザと同等の「5類」に変更することを決めた。それに合わせてマスク対策も緩和する、という岸田文雄首相の方針を聞いた時には「ええっ!」と思った。

 当初は「屋内でもマスクは原則不要」との案が浮上していた。厚生労働省の感染症部会の議論を経て、「個人の判断に委ねることを基本とする」となったが、緩和のメリットとデメリットをどう判断したのかはわからない。

 たとえ類型を変えても、新型コロナのオミクロン株の高い感染性は変わらない。感染が拡大すれば医療が逼迫(ひっぱく)し、死亡者が増えることも変わらない。

 一方で、感染対策におけるマスクの有効性には一定のエビデンスがある。そもそも類型変更とマスク対策は別の話。単に個人に丸投げするとすれば、感染症法が求める発生予防やまん延防止に反するのでは?

 政府は一体どういう科学的根拠に基づいて「原則不要」を打ち出そうとしていたのだろうか。安倍晋三元首相も菅義偉元首相も、小中高校の一斉休校や、感染が収束しない中で実施した旅行需要喚起策「GoToトラベル」など、科学的根拠のない対策を打ち出したことがある。ただ、その時は「お友達や取り巻きのあの人の意見を聞いたのだろう」ということが透けて見えた。

 岸田さんの場合は、それさえわからない。どんな思惑があるのだろうか。

インフルエンザと同等でない

 新型コロナは現在、感染症法で「新型インフルエンザ等感染症」に分類され、「2類相当」とされている。一方、5類に分類されているのは季節性インフルエンザや麻しん、エイズなどだ。

 では、新型コロナが5類に分類されると何が変わるのか。まず、法律に基づく入院措置や感染者の自宅待機、外出自粛要請がなくなる。濃厚接触者への措置もなくなる。緊急事態宣言も出ない。

 これらの中にはすでに実態にあわないものが確かにあるし、法に基づく…

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客員編集委員

東京生まれ。科学ジャーナリスト。好きな分野は生命科学と天文学。著書に「インフルエンザは征圧できるのか」「宇宙はこう考えられている」「ゲノム編集の光と闇」(第35回講談社科学出版賞受賞)など。20年日本記者クラブ賞受賞