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五輪汚職「社内で贈賄リスク指摘」KADOKAWAが落ちた穴

今沢真・経済プレミア編集部
贈賄罪の容疑で逮捕される前に、記者の質問に答えるKADOKAWAの角川歴彦会長(肩書は当時)=東京都千代田区で2022年9月5日、吉田航太撮影
贈賄罪の容疑で逮捕される前に、記者の質問に答えるKADOKAWAの角川歴彦会長(肩書は当時)=東京都千代田区で2022年9月5日、吉田航太撮影

五輪汚職・KADOKAWAの報告書(上)

 東京五輪を巡る汚職事件で、角川歴彦(つぐひこ)前会長(79)ら3人が贈賄罪で起訴された出版大手、KADOKAWAは1月23日、外部弁護士らで作るガバナンス検証委員会の調査報告書を公表した。五輪協賛に伴う資金提供に、社内では繰り返し「贈賄リスク」が指摘されていた。そのような危ない行為に突き進んだのはなぜか。

 報告書によると、同社は五輪スポンサー応募に向け、角川前会長(当時は会長)らの了解のもと「協賛金の上限は5億円」とする方針を決めた。担当室が中心となり大会組織委員会の高橋治之元理事(78)=受託収賄罪で起訴=らと接触をはじめた。

 2016年10月、高橋元理事側からスポンサー料を2億8000万円前後とする提案を受けた。金額は抑えられた一方で、元理事の電通時代の後輩のコンサル会社に「コーディネートフィー」(仲介手数料)として7000万円前後を支払う内容が盛り込まれていた。

 担当室は提案を角川前会長に報告し、受け入れる方向で社内の検討をはじめた。ところが知財法務部が、元理事は「みなし公務員」に当たり、「何らかの融通をしてもらうと支払いが贈賄となる可能性がある」と指摘。「客観的に見ると限りなく黒に近いグレー」「非常に危険」「相当懸念している」と警鐘を鳴らした。

「進めるしか仕方ない」

 担当室は、別の業務のコンサル料として支払う対案を検討。それでも知財法務部は「どのようなスキームを講じようと、刑事訴訟において有罪となる確率を減らす意味しかなく、法律一般論としては犯罪」と贈賄罪に問われる可能性をあげた。

 顧問弁護士も「職務関連性がある内容のお願いをして利益を供与すれば贈賄になる。非常に怪しい状況であり、何をどこまでやればシロになるとはならない。限界がある」と同様の見解だった。

 こうした懸念は角川前会長や当時の松原真樹社長に伝えられたが、方針は変わらなかった。知財法務部はその後、「グレーな状態でいけるのでは」といった姿勢も見せた。同部の担当者は検証委のヒアリングに対し、「会社としてやると決めている以上、法務としては進めるしか仕方がないと思った」と振り返ったという。

 同社は19年6月、組織委と2億8000万円のスポンサー契約を結んだ。コンサル会社には7000万円と消費税分を支払った。事前の経営会議では7000万円の支払いは伏せられ、対外的にはスポンサー料の金額も非公表だった。

 報告書は、こうした事実確認を踏まえ、角川前会長が支払いに…

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経済プレミア編集部

1983年毎日新聞入社。89年経済部。日銀・財研キャップ、副部長を経て論説委員(財政担当)。15年経済プレミア創刊編集長。19年から同編集部。22年4月に再び編集長に。同9月から編集部総括。16年に出版した「東芝 不正会計 底なしの闇」(毎日新聞出版)がビジネス部門ベストセラーに。ほかに「東芝 終わりなき危機」など。16~18年度城西大非常勤講師。