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乾燥すると「助けてー」と悲鳴?植物の神秘に迫る

青野由利・客員編集委員
花粉を集めるミツバチ。ハチの音に植物が反応しているという研究もある=東京都立川市で2022年10月4日、幾島健太郎撮影
花粉を集めるミツバチ。ハチの音に植物が反応しているという研究もある=東京都立川市で2022年10月4日、幾島健太郎撮影

 作家で文化人類学者の上橋菜穂子さんの最新作「香君」は、香りで万象を知る少女が主人公だ。テーマは香りを使った植物のコミュニケーション。虫に食われた植物が香りで虫の天敵を呼び寄せる。それを感じる少女の世界が印象深い。

 植物が化学物質を介して害虫を防いだり、他の植物に影響を与えたりする現象は現実の世界でも起きていて、アレロパシーと呼ばれる。上橋さんがこの物語を着想したのも、こうした現象を知って、植物は「静かな存在」ではないと気づいたためだという。

 実のところ植物は想像以上に雄弁なのかもしれない。イスラエル・テルアビブ大のチームが3月末に「セル誌」に公表した論文によると、ストレスにさらされた植物は「音」を発していることがわかったという。

ストレスで音の放出増え

 「助けてー」と言っているかどうかは別として、興味深い。

 実験に使ったのはトマトとタバコ。これらを箱に入れマイクで記録してみると、水切れや茎の切断によるストレスにさらされた時に空気中に音を放出していた。

 ストレスがなくても音を発するが、1時間に1回以下でおおむね静か。それが乾燥するとトマトで平均35回、タバコで平均11回と明らかに増えた。茎切断のストレスでは…

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客員編集委員

東京生まれ。科学ジャーナリスト。好きな分野は生命科学と天文学。著書に「インフルエンザは征圧できるのか」「宇宙はこう考えられている」「ゲノム編集の光と闇」(第35回講談社科学出版賞受賞)など。20年日本記者クラブ賞受賞