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原発が安いは本当?「東電資料」から見つけた意外なデータ

川口雅浩・経済プレミア編集長
東京電力が電気料金の計算で再稼働を織り込む柏崎刈羽原発。左から7号機、6号機=新潟県で2021年4月13日、本社機「希望」から
東京電力が電気料金の計算で再稼働を織り込む柏崎刈羽原発。左から7号機、6号機=新潟県で2021年4月13日、本社機「希望」から

原発の発電コストが安いは本当か(上)

 東京電力など大手電力7社が6月1日から電気の規制料金を値上げした。政府や電力会社は原発を再稼働すれば燃料代が安くなり、電気料金の抑制につながると主張しているが、本当なのか。東電の公表資料を基に計算すると、原発の発電コストが火力などの市場価格を上回るという意外なデータが浮かび上がった。

 東電(正確には東京電力ホールディングス傘下で電力を販売する東京電力エナジーパートナー)は、家庭などに供給する電気の規制料金を6月1日から平均15.9%値上げした。

 東電は福島第1原発の事故後、全ての原発が停止している。ところが今回の電気料金の原価計算では、新潟県の柏崎刈羽原発6、7号機を再稼働させることを「仮置き」として織り込んでいる。

 原発2基を再稼働することで、東電は「年間900億円程度の費用削減効果になる」と説明する。これは再稼働に伴い、核燃料代などはかかるが、卸電力取引市場を通じて他社から購入する火力発電などの電力が少なくなるからだという。

東電の公表資料を基に計算

 大手電力の規制料金の値上げは、政府の電力・ガス取引監視等委員会が消費者庁とともに審査した。東電が同委員会に提出した資料によると、東電が他社から購入する火力などの電力の市場価格は1キロワット時当たり20.97円となっている。

 これに対して、原発の発電コストはいくらなのか。東電の公表資料によると、再稼働する原発2基で年間119億キロワット時の電力を発電する想定で、その費用の総額は4940億円という。

 この中には日本原子力発電と東北電力から原発の電力を購入する契約に基づき、東電が日本原電に支払う約550億円と東北電力に支払う約313億円が含まれている。両社の原発は動いていないため、東電が実際に受け取る原発の電力はゼロだが、契約に基づき人件費や修繕費などを「基本料金」として支払うことになっている。

 年間119億キロワット時の電力を4940億円かけて発電するので、1キロワット時当たりの発電コストは4940÷119=41.51円となる。日本原電と東北電力へ支払う基本料金を除いた東電の原発にかかる費用は4076億円となっており、発電コストは4076÷119=34.25円となる計算だ。

原発が全基再稼働したら?

 いずれも東電が他社から購入する上記の市場価格20.97円を大きく上回る。これなら東電は原発2基を再稼働するよりも、市場から火力発電など他社の電力を購入した方が安く済む計算になる。

 さらに原発が再稼働した場合はどうか…

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経済プレミア編集長

1964年生まれ。上智大ドイツ文学科卒。毎日新聞経済部で財務、経済産業、国土交通など中央官庁や日銀、金融業界、財界などを幅広く取材。共著に「破綻 北海道が凍てついた日々」(毎日新聞社)、「日本の技術は世界一」(新潮文庫)など。財政・金融のほか、原発や再生可能エネルギーなど環境エネルギー政策がライフワーク。19年5月から経済プレミア編集部。