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途上国にも貢献 コロナ後の「日本のワクチン戦略」とは

青野由利・客員編集委員
新種ウイルス感染症のワクチン開発に期待が高まっている。写真は新型コロナウイルスの小児用ワクチン=岐阜市で2022年4月19日、黒詰拓也撮影
新種ウイルス感染症のワクチン開発に期待が高まっている。写真は新型コロナウイルスの小児用ワクチン=岐阜市で2022年4月19日、黒詰拓也撮影

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)対策で日本は決して負けっぱなしではなかった。経済協力開発機構(OECD)諸国の中で死亡率の低さを見ればよくわかる。

 ただ、あぶり出された弱点はある。ひとつがワクチン開発力の弱さだろう。

 その反省にたって、昨年、政府の日本医療研究開発機構(AMED)内に「先進的研究開発戦略センター(SCARDA)」が新設された。

 ワクチン開発の司令塔として、基礎研究から実用化までを視野に5年間で2019億円を投じる。これまでに、「世界トップレベルの研究開発拠点」として東京大など5チームを選んだ。

 これとは別に、新型コロナの仲間に広く有効なワクチンの開発(塩野義製薬)や、デング熱ワクチンの開発(KMバイオロジクス)などへの研究助成が決まっている。いずれも公募だ。

「顧みられない感染症」への挑戦

 その中にユニークな研究テーマがある。東京大生産技術研究所特任教授の甲斐知恵子さんを代表とするチームのニパウイルス感染症ワクチンの開発だ。エボラのように有名ではないが、ニパウイルスは致死率が40~90%に達する手ごわい新種のウイルスだ。

 日本ではなじみのない感染症のワクチン開発かもしれないが、私は以前から注目していた。なぜなら、日本では珍しい「顧みられない感染症」への挑戦であり、基礎研究はうまくいったのに実用化が進まず、紆余(うよ)曲折を経てきたからだ。

 途上国や貧困国の人々に大きな影響を与えているにもかかわらず、国際的に焦点があてられることがなく、資金も提供されない――。それが「顧みられない感染症」だ。「顧みられない熱帯病」とも言われる。

 ニパウイルス感染症もそのひとつで、自然宿主はオオコウモリ。豚にも人にも感染し、豚から人、人から人へも感染する。汚染された食べ物からの感染もある。

 1990年代にマレーシアの養豚地帯で流行したのをきっかけに発見され、その後も…

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客員編集委員

東京生まれ。科学ジャーナリスト。好きな分野は生命科学と天文学。著書に「インフルエンザは征圧できるのか」「宇宙はこう考えられている」「ゲノム編集の光と闇」(第35回講談社科学出版賞受賞)など。20年日本記者クラブ賞受賞