
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)対策で日本は決して負けっぱなしではなかった。経済協力開発機構(OECD)諸国の中で死亡率の低さを見ればよくわかる。
ただ、あぶり出された弱点はある。ひとつがワクチン開発力の弱さだろう。
その反省にたって、昨年、政府の日本医療研究開発機構(AMED)内に「先進的研究開発戦略センター(SCARDA)」が新設された。
ワクチン開発の司令塔として、基礎研究から実用化までを視野に5年間で2019億円を投じる。これまでに、「世界トップレベルの研究開発拠点」として東京大など5チームを選んだ。
これとは別に、新型コロナの仲間に広く有効なワクチンの開発(塩野義製薬)や、デング熱ワクチンの開発(KMバイオロジクス)などへの研究助成が決まっている。いずれも公募だ。
「顧みられない感染症」への挑戦
その中にユニークな研究テーマがある。東京大生産技術研究所特任教授の甲斐知恵子さんを代表とするチームのニパウイルス感染症ワクチンの開発だ。エボラのように有名ではないが、ニパウイルスは致死率が40~90%に達する手ごわい新種のウイルスだ。
日本ではなじみのない感染症のワクチン開発かもしれないが、私は以前から注目していた。なぜなら、日本では珍しい「顧みられない感染症」への挑戦であり、基礎研究はうまくいったのに実用化が進まず、紆余(うよ)曲折を経てきたからだ。
途上国や貧困国の人々に大きな影響を与えているにもかかわらず、国際的に焦点があてられることがなく、資金も提供されない――。それが「顧みられない感染症」だ。「顧みられない熱帯病」とも言われる。
ニパウイルス感染症もそのひとつで、自然宿主はオオコウモリ。豚にも人にも感染し、豚から人、人から人へも感染する。汚染された食べ物からの感染もある。
1990年代にマレーシアの養豚地帯で流行したのをきっかけに発見され、その後も…
この記事は有料記事です。
残り1042文字(全文1843文字)