孤島の小さな診療所から

島のことを知るなら「大東新聞」

太田龍一・沖縄県立南部医療センター付属南大東診療所長
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南大東島の中心街、在所(ざいしょ)地区。行政機関、商店、飲食店などのほぼ全てがここに集中し、北大東島も含めた大東諸島最大の繁華街となっています=筆者提供
南大東島の中心街、在所(ざいしょ)地区。行政機関、商店、飲食店などのほぼ全てがここに集中し、北大東島も含めた大東諸島最大の繁華街となっています=筆者提供

 みなさん、うわさ話は好きですか?

 なぜいきなりこんなことを書いたかというと、離島こそ「うわさ好き」が集う最たる地だと私が思っているからです。

 小さな閉鎖空間に限られた数の人が住んでいて、お互いがみんな知り合いという環境を想像してみてください。そこにうわさ好きの人が何人もいたら……。島の端っこで、何かが起これば、かなり高速の伝言ゲームのように島中に広まります。

 自己紹介にも書いていますが、私の趣味の一つに朝のジョギングがあります。毎朝、リフレッシュの意味も込めて島内を走っております。ちょうど走り始めたのが、赴任して半年ぐらいたってからで、確か島の住民検診で、私自身が「肥満疑い」と書かれたことがきっかけだったと思います。走り始めて2日ほどたってからのこと。外来患者さんの中に、私の運動指導の説明の後「先生も走っているし、私も頑張らないとね」とおっしゃる方が徐々に増えてきました。その時は、どこかで見ていたのかな?と軽く思っていましたが、よくよく考えてみるとおかしいのです。そう言われた方の多くは、私が走っているコースからはかなり離れた地区にお住まいですし、第一、私が走っているのは早朝で、民家の近くを避けていました。島の知人に聞いてみたところ、返ってきた言葉は「もうその話、『大東新聞』で回っていますよ」。

 「大東新聞」と聞けばまず浮かぶのが、いわゆる本物の新聞ですよね。毎日、朝夕に発行されているおなじみのものです。「大東新聞」は違います。南大東島に新聞社はありませんから、実際に発行されているものではありません。「大東新聞」という紙の新聞もインターネットニュースも存在しません。しかし「記者」はいます! 南大東島のいたるところで情報収集をしています。そして非定期に情報を配信しているのです……。

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太田龍一

沖縄県立南部医療センター付属南大東診療所長

おおた・りゅういち 大阪府出身。2004年大阪市立大学医学部入学。同大学卒業後、10年から沖縄県立中部病院プライマリケアコースで研修。13年から現職。人口約1400人の南大東島で唯一の医師として、島民の日常的な健康管理から救急医療までを一手に担う。趣味は読書とランニング。毎年秋に開かれる島の運動会、駅伝大会への参加を目指し、鋭意トレーニング中。