幸せな認知症

「治る認知症」鑑別は出発点

上田諭・東京医療学院大学教授
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 半年前までしっかりしていた夫の行動がどんどんおかしくなった。日付がわからず、道に迷う。昨日のことも覚えていない。最近は家の中のごみ箱に放尿し失禁もする。男性は60代後半。認知症に違いないと妻に連れられて受診された。

 会話が通じず、質問形式の認知症スクリーニング検査(30点満点)を行うこともできない。23点以下が認知症を疑うラインだ。頭部CTでは脳全体に萎縮があった。それでも私は認知症らしくないと思った。症状の進行が早すぎるのだ。高齢者の認知症は通常、いつからか気づかれないうちに発症し、とてもゆっくりと進行する。このような最重度の状態になるまでふつうなら10年以上かからないとおかしい。

 血液検査をすると、貧血とその原因のビタミンB12の著しい低下がわかった。10年前の、胃を全部とる手…

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上田諭

東京医療学院大学教授

うえだ・さとし 京都府生まれ。関西学院大学社会学部では福祉専攻で精神医学のゼミで学ぶ。卒後、朝日新聞に記者で入社したが、途中から内勤の編集部門に移され「うつうつとした」日々。「人生このままでは終われない」と、もともと胸にくすぶっていた医学への志向から1990年、9年勤めた新聞社を退社し北海道大学医学部に入学(一般入試による選抜)。96年に卒業、東京医科歯科大学精神神経科の研修医に。以後、都立の高齢者専門病院を中心に勤務し、「適切でない高齢者医療」の現状を目の当たりにする。2007年、高齢者のうつ病治療に欠かせない電気けいれん療法の手法を学ぶため、米国デューク大学メディカルセンターで研修し修了。同年から日本医科大学(東京都文京区)精神神経科助教、11年から講師、17年4月より東京医療学院大学保健医療学部教授。北辰病院(埼玉県越谷市)では、「高齢者専門外来」を行っている。著書に、「治さなくてよい認知症」(日本評論社、2014)、「不幸な認知症 幸せな認知症」(マガジンハウス、2014)、訳書に「精神病性うつ病―病態の見立てと治療」(星和書店、2013)、「パルス波ECTハンドブック」(医学書院、2012)など。