こころと向き合う

鎮痛薬適応拡大の危うさ

松本俊彦・国立精神・神経医療研究センター部長
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 トヨタ女性役員による医療用麻薬の密輸騒ぎは、私には米国の薬物を巡る状況の一端を反映した出来事と感じられた。米国では医療用麻薬の乱用・依存が深刻な社会問題となっており、その主要な原因として医療機関での安易な処方がある。

 この件は、対岸の火事ではない。実は日本でも数年前から、医療用麻薬のモルヒネと同系統の「オピオイド系鎮痛薬」の適応拡大が進んでいるからだ。「使う薬は弱いオピオイドだから依存性がない」と楽観する人もいるが、弱オピオイドに分類される成分「コデイン」を含むせき止め薬の依存症患者を多く診てきた私からすれば、説得力を感じない。

 誤解しないでほしいが、私は緩和ケアにおける医療用麻薬の重要性は十分に認識している。実際、がんの痛み…

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松本俊彦

国立精神・神経医療研究センター部長

まつもと・としひこ 国立精神・神経医療研究センター病院精神科医師、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長、精神保健指定医、精神保健判定医、精神神経学会精神科専門医・指導医。