実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

その風邪、細菌性? それともウイルス性?

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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知っているようで、ほとんど知らない風邪の秘密【2】

 前回は「風邪」の定義を「急性の上気道炎症状をきたす感染症」とすること、抗菌薬(今回からは「抗生物質」という言葉は使いません)は細菌性の風邪についてのみ有効であることなどを述べました。

 今回は、そもそも細菌性かウイルス性かそれ以外かについてどうやって判別すればいいのか、という話から始めたいと思います。しかし、一般の人がウイルス性か細菌性か、などと考える必要はありません。重症であれば医療機関を受診する、ただそれだけを覚えておけば十分です。

 ただし、赤ちゃんや寝たきりの高齢者、あるいは抗がん剤を使用している人やHIV(ヒト免疫不全ウイルス)陽性の人、そのような人と共に暮らしている人、介護職に従事している人などは注意が必要です。また、MERS(中東呼吸器症候群)流行地から戻ってきた人や海外で蚊に刺された人などは、軽症であったとしても十分な注意が必要です。いずれも重大な症状に移行したり、他の病気を悪化させたりする可能性があるためです。

医師はあなたの風邪の正体をどうやって見定めているか

 ここからは、風邪症状を訴えた患者さんを診て、我々医師がどのようにそれが細菌性か否かを鑑別しているかについて紹介したいと思います。内容は一般の人向けというよりは医学生や研修医向けとなるかもしれません。しかし、一般の方にも知ってほしいこともありますのでこのまま読み続けてもらえればうれしいです。

 風邪症状を訴えた患者さんが受診したとき、我々は歩き方、表情、呼吸の仕方、話し方や声の様子などにも注意をします。問診ではいつからどのような症状が始まったか、現在はどのような症状があり最も困っていることは何か、元々風邪はひきやすいのか、自身ではどのようなことが原因と考えているか、海外旅行の有無は、ペットは飼っているか、周囲で同じような症状の人がいないか、といったことを尋ねていきます。熱を測定し、咽頭(いんとう)の発赤の程度(喉がどの程度赤くなっているか)を見て、せきが強ければ胸の音を聞きます。現在かかっている病気や過去の病気について尋ね、今飲んでいる薬や薬のアレルギー、喫煙の有無、妊娠の有無なども確認していきます。

 この時点で「軽症の風邪」と判断すれば、抗菌薬はもちろん処方しませんし、一切の薬を処方せずに帰宅してもらうこともあります。ここでいう「軽症の風邪」とは「ほとんどのウイルスによる風邪」もしくは「細菌感染による軽度の風邪」です(注1)。「ほとんどのウイルス」とは具体的にはライノウイルス、コロナウイルス(注2)、エコーウイルスなど感染してもたいして重症化しないウイルスです。インフルエンザウイルスは別に考える必要がありますし、MERSやデング熱など重症化するものも「ほとんどのウイルス」には含まれません(インフルエンザについては回を改めて述べます)。

初診でレントゲンや血液検査はほとんど不要

 軽症でないかもしれないときは、検査を考慮した方がよい、ということになります。ただし初回にレントゲン撮影をすることはまずありません。せきが長引いていて肺炎や結核、あるいは肺がんを疑うときに撮影することもありますが、それらは例外です。副鼻腔(ふくびくう)炎を疑ったときに顔面のレントゲンを撮影することもありますが、やはり初診時に行うことはまずありません(注3)。レントゲン撮影は必要最低限にすべきだからです。放射線被ばくの問題もありますし、医療にかかる費用を不必要に増加させないためにも、過剰な撮影は避けた方がいいでしょう。初診時に「レントゲンをとってほしい」と訴える患者さんがいますが、多くのケースでそれは過剰診療に当たります(注4)。

 血液検査については、症状が強ければ実施することもありますが、日ごろ健康な人の風邪の症状で初回から採血をすることはほとんどありません。血液検査で白血球の増減を見ることは、重症度の判定や細菌性かウイルス性かの区別をするときに有効です。またC反応性たんぱく(CRP)やプロカルシトニン、あるいは血沈(ESR)の検査値はそれなりに参考にはなります。しかしあくまでも参考です。

 たとえば重症の糖尿病や悪性腫瘍(がん)、HIV感染症など、免疫系に異常がある場合は、比較的早い段階で採血をします。また日ごろ健康な人で40度を超える高熱や動けないほどの倦怠(けんたい)感、割れるような頭痛などがある場合も同様です。しかし太融寺町谷口医院(以下谷口医院)の例でいえば、風邪症状での受診で、初回から採血をすることはほとんどありません。その理由はいくつかあります。まず、たかが採血でも体に針を刺すと痛みが生じ、費用も当然かかります。そうまでして行っても、血液検査の結果はすぐに出ないという欠点もあります(注5)。

顕微鏡でたんを調べて見通しを立てる

 では、どのような検査が有効かというと、谷口医院では、患者さんの喀痰(かくたん=たん)や、咽頭スワブ(のどを綿棒でぬぐったもの)をスライドガラスに引いてグラム染色という特殊な染色を行い、顕微鏡で観察するという方法をよく用います。顕微鏡で細菌の像及び細菌を退治するために集まってきた白血球を観察するのです。その細菌が丸い形状の球菌なのか、細長い形の桿菌(かんきん)なのか、色は青色(グラム陽性)か赤色(グラム陰性)なのかなどを見ることで、原因となっている細菌の見通しを立てることができます。

咽頭スワブ(綿棒でのどをぬぐったもの)のグラム染色像。小さな丸い濃い青いものがグラム陽性球菌。周囲の大きなピンクのものが白血球。この症例ではグラム陽性球菌によく効く抗菌薬を処方した=筆者提供
咽頭スワブ(綿棒でのどをぬぐったもの)のグラム染色像。小さな丸い濃い青いものがグラム陽性球菌。周囲の大きなピンクのものが白血球。この症例ではグラム陽性球菌によく効く抗菌薬を処方した=筆者提供

 この方法は有用な情報が得られるだけではありません。時間は5分もかからず、痛くもなく、被ばくもしません。その上、費用も安いのです。喀痰や咽頭スワブを用いた検査では「培養検査」といって増殖している細菌の種類まで調べることのできる検査もありますが、通常初診時には行いません。値段が高いですし、結果が出るまでに1週間前後もかかるからです。

 細菌は誰の咽頭(=のど)にも存在していますから、細菌がそこに「いる」だけでは感染症ではありません。感染症として「悪さをしている」かどうかを見るのです。悪さをしている細菌の場合、好中球と呼ばれる一部の白血球が細菌をとらえている像が観察され、これを指標にします。当然のことながらウイルス感染では細菌像は見えず、好中球はさほど現れません。ただし、一部の顕微鏡にうつらないほど小さな細菌(たとえば百日せきやマイコプラズマ、クラミドフィラ/クラミジア)の場合は、白血球の数や臨床症状から推測し、どうしても診断を確定する必要があれば検査キットの使用や採血を行うこともあります(注6)。

 次回は抗菌薬の飲み方の注意点を説明していきます。

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注1:細菌性の感染症には抗菌薬が必ず必要と考えている人がいますが、そうではありません。特に基礎疾患(糖尿病や悪性腫瘍、HIV感染症など)のない健康な人で、軽症であれば患者さんの自然免疫力に期待して抗菌薬を処方しないこともあります。抗菌薬の処方には、いつも「ベネフィットとリスク」を総合的に考える必要があります。

注2:コロナウイルスというとSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERSの原因ウイルスとして有名ですが、これらはコロナウイルスが変異して重症化した「特殊型」であり、以前から日本に存在するコロナウイルスは感染しても重症化はしません。

注3:急性副鼻腔炎を疑ったときは頬骨(ほおぼね)のあたりを軽くたたいてみます。両側に圧痛が生じれば可能性が高いといえます。当たり前ですが、この診察で追加料金はかかりません。

注4:レントゲン撮影はどんな部位でも最小限にすべきです。谷口医院の場合、腰痛を訴える患者さんに初回で腰のレントゲン撮影をするのは10人に1人もいません。また、CT(コンピューター断層撮影)についてはさらに慎重になるべきです。東日本大震災以降、被ばくについて関心をもつ人が増えたおかげで、「とにかくCTを撮ってください!」という人は減りました。かつては頭痛やせきがあるだけでCTを希望する人が多く、不要であることを説明するのに何度も苦労しました(今でも皆無ではありません)。

注5:大きな病院や一部の診療所では白血球の数値やC反応性たんぱく(CRP)については数十分で結果がでる器械を置いています。ただし細菌感染かどうかを最もよく知ることのできるプロカルシトニンはほとんどの施設では1~3日かかりますし、費用は安くありません。

注6:本文では診察と検査で細菌性かウイルス性かを見分ける方法を述べましたが、自覚症状からある程度の見当をつけることもできます。さほど高熱がでず、くしゃみ、鼻水、軽度の咽頭痛があり、食欲は多少落ちるものの食べられないわけではない、という程度であればほとんどがウイルス感染です。一方、自覚症状からも細菌性を疑うのは、左右どちらかの扁桃(へんとう)が痛い場合、つばを飲み込んだときに激しい痛みが生じるとき、高熱と咽頭痛が強いわりには鼻水やくしゃみがさほどない場合、濃い色をしたたんがでる場合、などです。こういった症状があり、軽症でないと判断した場合は医療機関を受診すべきでしょう。

谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト