実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

あなたは恐ろしい「耐性菌」を生み出していませんか?

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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知っているようで、ほとんど知らない風邪の秘密【3】

 前回は、風邪が細菌性かウイルス性かを見分ける方法として、レントゲンや血液検査はほとんどの検査で初回にはすべきでないこと、喀痰(かくたん=たん)、またはのどを綿棒でぬぐった「咽頭(いんとう)スワブ」のグラム染色検査が、短時間かつ安価で有用だということを述べました。

処方された抗菌薬は「飲みきる」が大原則

 今回は抗菌薬の飲み方の注意点をお話ししていきます。最も大切なのは「処方された抗菌薬は(大きな副作用がでない限りは)症状が改善しても最後まで飲みきる」ことです。この点は非常に大切です。抗菌薬は、中途半端な使い方をすればターゲットにした細菌が死にきらないだけでなく、後々、「耐性菌」を作りだす可能性があります。

 「耐性菌」とはその抗菌薬が効かなくなる菌のことです。単純に薬が効かなくなると大変だ、というレベルの話ではありません。そもそも「人類対細菌」の歴史は、耐性菌との戦いといっても過言ではありません。世界最初の抗菌薬ペニシリンが登場した当初は多くの細菌に効果がありましたが、そのうちに耐性菌が出現しました。するとその耐性菌に効く抗菌薬が開発され、その新しい抗菌薬が効かない耐性菌が出現して……というイタチごっこのような戦いを繰り返しているのです。

 風邪で処方された抗菌薬を自覚症状がなくなったからといって、自己判断で中止するとあなたが耐性菌を生み出すことになるかもしれません。ときどき、風邪をひいたので自宅にあった抗菌薬を飲んだんですけど……、と言って受診する人がいますが、抗菌薬が家にあること自体がおかしいのです。抗菌薬は副作用で継続することができない場合を除き、原則として元気になっても飲みきることが重要です(注1)。

飲まねばならない薬、飲まなくてもいい薬

 この点はとても重要なのでもう少し続けます。細菌性の風邪で医療機関を受診したとき、抗菌薬以外に処方されるものとして、解熱鎮痛薬、せき止め、たん切り、抗ヒスタミン薬(鼻水止め)などがあります。このうち、抗菌薬以外は自分の判断で中止してもかまいません(受診時に主治医に確認しておいた方がいいでしょうが)。しかし、抗菌薬だけはダメなのです。敵をやっつけるときは中途半端な攻撃では不十分で「壊滅」までもっていく必要があるというわけです。同じ抗菌薬でもときには3日分、ときには7日分の処方となることがあるのは、医師は重症度をみて適切な処方量を決めているのであり、決してルーティンで処方しているわけではありません。

 ところで、細菌感染が疑われればいつも抗菌薬を飲まないといけないのでしょうか。答えは、否、です。糖尿病や悪性腫瘍(がん)、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症など免疫に影響を与える基礎疾患がなく、全身状態が良好で、顕微鏡の検査で、細菌像や白血球の数が少ない状態、つまり炎症所見がそれほど強くない状態であれば、細菌性の風邪でも抗菌薬は必ずしも必要ありません。それに、抗菌薬は決して少なくない副作用があります。抗菌薬を飲むべきなのは「抗菌薬を飲むメリット」が「抗菌薬で起こるかもしれない副作用」を大幅に上回るときだけです。

 さらに言えば、解熱鎮痛薬もせき止めもたん切りも必ずしも必要ではありません。実際私は風邪で受診した患者さんに対してまったく何も処方しないことも多々あります。ウイルス性の風邪や細菌性でも軽症の風邪であれば、水分摂取に注意して休養をとるのが一番なのです。

 せっかく受診して長時間待たされたんだから薬くらい出してくれ!と言う人もいますが、一切の薬を使わないことがその人にとって一番いいことも多いのです。不要な薬を飲んで副作用が出現すれば目も当てられません。私は研修医を終えたあたりから、風邪にも可能な限り薬を処方しないという方針を貫いていますが、このようなやり方は医師としては少数派かもしれません。しかし賛同してくれる患者さんは少なくなく、最近は、「今回は薬なしでいきましょう」と言うと、「よかったです。先生のその言葉を期待して今日は受診しました」という患者さんも増えてきています。

細菌の種類と重症度で薬の種類を選ぶ

 次に、どの抗菌薬を選ぶのか、です。前回紹介したグラム染色という顕微鏡の検査は、形と色により細菌を「グラム陽性球菌」「グラム陰性桿菌」などと見分け、分類することができます。また白血球の種類や数などから重症度の推測ができます。細菌のカテゴリーと重症度から適切な抗菌薬を選択することができるのです。

 最近は「PCR検査」と呼ばれる特定の感染症の有無を調べる検査が主流になってきています。このPCR検査の最大の欠点は「重症度がまったく判定できない」ことです。グラム染色はスライドを作成するのにある程度の手間がかかりますし、きちんと判別できるようになるには少なくとも数百例の症例を経験しなければなりません。一方、PCR検査は綿棒を検査室に提出すれば数日後には結果が届けられますから診察する医師からすればラクなのです。しかしグラム染色であれば、結果がでるのが早く(5分でわかります!)、費用も安く、その上重症度も簡単にわかるのです。

 ちなみに、総合診療/プライマリ・ケア(注2)の現場では、このグラム染色が大変重要視されていて、大学病院など研修医を教育する病院でも教えられています。太融寺町谷口医院にも「グラム染色の勉強がしたい」と言って見学・研修を希望する研修医が来ます。

抗菌薬(抗生物質)は気軽に処方できる薬ではない

 話を戻します。問診、喉の観察、聴診(ただし「風邪」で異常な音が聞こえることはまずありません。聴診するのは、肺炎やぜんそくを否定するためであることがほとんどです)などに加え、グラム染色をおこない、どのような細菌がどの程度炎症を引き起こしているかを確認して、ようやく抗菌薬の種類と分量が決定されます。

 「抗菌薬(抗生物質)をください」と患者さんに言われても、決して気軽に処方できるものではない、ということがお分かりいただけたのではないでしょうか。

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注1:耐性菌の出現を阻止するために「自分の判断で抗菌薬を飲んだりやめたりしない」ということは世界全体で守らなければなりません。ところが、私の個人的な経験でいえば、欧米人のバックパッカーたちはなぜか複数種の抗菌薬を持参していますし、アジアでは薬局どころか屋台でさえ抗菌薬が売られていることがあります(本物の薬かどうかわかりませんが)。私は以前バンコクの屋台で抗菌薬を見たとき、めまいを起こして倒れそうになりました……。

注2:総合診療/プライマリ・ケアについては第1回の注釈を参照ください。

風邪の秘密シリーズ第1回はこちら

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。