幸せな認知症 フォロー

行動心理症状になぜすぐ薬なのか

上田諭・東京医療学院大学教授

 夫を外出させまいとたたいたり、女に会いに行くのかと言ったりする軽度アルツハイマー病の女性に対し、その心情をまず考えることが大切だと前回書いた。しかし現実をみると、その言動はしばしば「暴力」「嫉妬妄想」という医学用語に置き換えられ、認知症からくる「行動心理症状」と単純にみられていることが多いのである。行動心理症状をBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)と呼んでいるが、このBPSDを抑えるため、専門医も介護者もまず薬で対処しようとする傾向がある。

 このとき用いられる薬には、イライラを和らげる漢方薬のほか、攻撃的な言動を鎮め妄想を抑える作用をもった抗精神病薬などがある。抗精神病薬は本来、若年成人に多い統合失調症の幻覚や妄想に対する薬である。高齢者に用いる場合、強い眠気、血圧低下、転倒、嚥下(えんげ)障害などの副作用に警戒が必要である。保険診療では認知症への投薬は認められないが、厚生労働省研究班が「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神…

この記事は有料記事です。

残り703文字(全文1163文字)

東京医療学院大学教授

うえだ・さとし 京都府生まれ。関西学院大学社会学部では福祉専攻で精神医学のゼミで学ぶ。卒後、朝日新聞に記者で入社したが、途中から内勤の編集部門に移され「うつうつとした」日々。「人生このままでは終われない」と、もともと胸にくすぶっていた医学への志向から1990年、9年勤めた新聞社を退社し北海道大学医学部に入学(一般入試による選抜)。96年に卒業、東京医科歯科大学精神神経科の研修医に。以後、都立の高齢者専門病院を中心に勤務し、「適切でない高齢者医療」の現状を目の当たりにする。2007年、高齢者のうつ病治療に欠かせない電気けいれん療法の手法を学ぶため、米国デューク大学メディカルセンターで研修し修了。同年から日本医科大学(東京都文京区)精神神経科助教、11年から講師、17年4月より東京医療学院大学保健医療学部教授。北辰病院(埼玉県越谷市)では、「高齢者専門外来」を行っている。著書に、「治さなくてよい認知症」(日本評論社、2014)、「不幸な認知症 幸せな認知症」(マガジンハウス、2014)、訳書に「精神病性うつ病―病態の見立てと治療」(星和書店、2013)、「パルス波ECTハンドブック」(医学書院、2012)など。