実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

手洗いの“常識”ウソ・ホント

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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 前回は、うがいが風邪の予防に大変有効であること、しかし日本以外ではうがいの習慣があまりないこと、うがいをするときはヨードを用いるのではなく水道水が有効であることなどをお伝えしました。

 今回は「手洗い」について述べていきたいと思います。うがいは水道水が最善、というのが前回の結論です。では手洗いもそうかというと、うがいとは異なり、手洗いには水道水だけでなく「せっけん」の使用が有効です。しかし、せっけんの「選択」には注意が必要で、「洗いすぎ」は逆効果になります。これらは追ってお話しするとして、まずは、せっけんがなぜ風邪の予防に有効なのかを考えてみたいと思います。せっけんを使えば効率的にできること、それは「アブラ汚れを簡単に落とせる」ということです。

 せっけんがなぜアブラをとることができるのか。これを理解するキーワードが、「界面活性剤」「ミセル」という二つの言葉です。中学校くらいで習ったことを思い出す方もおられるかもしれません。「界面活性剤」とは、水とくっつく部分(これを「親水基」と呼びます)と油とくっつく部分(これを「親油基」または「疎水基」と呼びます)の両方を持っている物質です。つまり、界面活性剤には水と油の両方がくっつくことができるわけです。そして皮膚にこびりついたアブラに界面活性剤がやってくると、親油基の方をアブラと結合させます。そして界面活性剤どうしが手をとりあってアブラを浮かび上がらせて、そのアブラを中に取り込んで球形の「ミセル」と呼ばれる集合体をつくります。あとは水で洗い流せばミセルごとアブラが取り除かれるというからくりです。

 細菌はアブラ汚れと共に皮膚に付着していることが多く、このようにせっけんで手洗いをするとミセルと共に細菌も洗い流すことができるのです。

 ウイルスはどうでしょうか。ウイルスは表面に「エンベロープ」と呼ばれる言わば「殻」のような構造を持っているタイプのものがあります。手洗いの有効性を考えるときには、エンベロープの有無がキーポイントで、エンベロープを持つタイプのウイルスにはせっけんは非常に有効です。そのアブラを落とす作用でエンベロープが皮膚からはがれやすくなるからです。そして、インフルエンザウイルスはエンベロープを持つウイルスです(他…

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト