実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

解熱鎮痛剤 安易に使うべからず

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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知っているようで、ほとんど知らない風邪の秘密【8】

 今回は「風邪」をひいたときの解熱鎮痛剤の使い方と危険性についてお話ししたいと思います。

風邪を致命的に悪化させることがある解熱鎮痛剤

 まず基本的な言葉を押さえておきましょう。風邪で用いる解熱鎮痛剤というのは「熱を下げたいとき」または「痛み(それは咽頭〈いんとう〉痛でも頭痛でも生理痛でも関節痛でも)を和らげたいとき」に用います。そのため解熱鎮痛剤はときには「熱冷まし」と呼ばれ、ときには「痛み止め」と呼ばれます。このうち一方だけに作用させることはできず、「熱冷まし」として飲んでも痛みは和らぎますし、逆に「痛み止め」として用いても熱が下がります。たとえば、虫歯の治療で「痛み止め」を飲んでいると、風邪をひいても熱が上がりにくくなります。

 今回はここで結論を述べたいと思います。それは「風邪の病原体によっては解熱鎮痛剤が症状を悪化させることがある。自分の判断で安易に解熱鎮痛薬を飲むべきでない」ということです。例を挙げましょう。

 たとえばインフルエンザウイルスに罹患(りかん)したとき、重症化すると「インフルエンザ脳炎・脳症」という状態になることがあります。このときに、もしも「サリチル酸系解熱剤」と分類される解熱鎮痛剤を使用すると、脳の血管を傷つけてしまう危険性があります。つまり、インフルエンザ脳炎・脳症を悪化させる可能性があるのです。

誰もが知る市販薬でも要注意

 そして「アスピリン」「バファリン」「ケロリン」など薬局で簡単に買える、誰もが名前を知っている非常に有名な解熱鎮痛剤のいくつかは、サリチル酸系解熱剤なのです。つまり、インフルエンザに罹患しているときに、薬局でこれらの薬を買って飲むと重症化する可能性があるということです。さらに、サリチル酸系解熱剤以外にも、ジクロフェナクナトリウムやメフェナム酸といった成分を含む解熱鎮痛剤(商品名では「ボルタレン」「ポンタール」など、いずれも有名でよく使われているものです)にも危険性があります。

 実は、我々医師も「風邪」に対する鎮痛や解熱はかなり慎重に行っています。インフルエンザは典型例であれば臨床症状から見当をつけることはできますが、100%の精度で診断できるわけではありません。15分くらいでインフルエンザに罹患しているかどうかを判別できるキットもありますが、感染初期の場合は正確な結果が出ないことが多々あります。

 もしもインフルエンザであるのにもかかわらず、先に述べた解熱鎮痛剤を処方すると、医師が処方した薬のせいでインフルエンザが重症化し、最悪の場合帰らぬ人に……、という可能性もなくはありません。では、先に挙げたもの以外の解熱鎮痛剤を処方すればいいではないか、と思う人もいるでしょう。

 しかしそう簡単ではないのです。「PL顆粒(かりゅう)」「ピーエイ」「ペレックス」といった医療機関で最もよく処方される「風邪薬」には、サリチル酸系解熱剤が含まれています。つまり、軽度なただのウイルス性の風邪と診断して、こういった風邪薬を処方すると、インフルエンザが重症化して……という可能性もあるというわけです。

水ぼうそう、デング熱でもリスクが

 インフルエンザだけではありません。まだ皮疹の症状が出ていない初期の水ぼうそう(水痘)は、風邪のような症状を示します。もしもこのときに単なる風邪と判断し、サリチル酸系解熱剤が含まれた薬を処方すると、やはり脳症を起こし生命にかかわる状態になることがあります。

 まだあります。第14回で紹介したデング熱にも皮疹が生じますが、発熱や頭痛などの風邪症状から数日遅れて出てきます。もしもデング熱にサリチル酸系解熱剤を含む「普通の風邪薬」を処方すると、場合によっては一気に重症化して生命にかかわることもあります。

 もちろん世の中の「普通の風邪」には「普通の風邪薬」を使っても生命が脅かされることはありません。しかし、初期の段階で「普通の風邪」とインフルエンザや水ぼうそう、デング熱などを見分けることはときに困難です。医師であっても困難です。

アセトアミノフェンの使い方を知ろう

 では、どうすればいいのでしょうか。風邪の症状が出て、高熱がある。しんどい。解熱薬が必要。しかしインフルエンザだったとしたらどうしよう……。そんな時の答えは「アセトアミノフェンを用いる」です。

 アセトアミノフェンというのは世界のどこででも用いられている解熱鎮痛剤で、インフルエンザ、水ぼうそう、デング熱などを含むどのような「風邪」にも用いることができます。しかも赤ちゃんでもお年寄りでも妊婦さんでも使うことができます。言わば最も安全な解熱鎮痛剤と言えるのです(もちろん小児の使用量は成人とは異なります。妊婦さんへの使用は危険とする研究もないわけではありません。また副作用がないわけではなく特に量を増やしたときには危険性が増します)。

 私の知る限り、アジア、欧米問わず海外では薬局でアセトアミノフェンを販売しており、多くの人が風邪、発熱、頭痛などのときに治療の第1選択としています。国によってはパラセタモールという呼び方をするところもあります。アセトアミノフェン、パラセタモールは共に一般名ですが、アメリカでは、「タイレノール」という商品名の方が名が通っています。

 日本ではどうかというと、アセトアミノフェンは商品名「カロナール」などが医療機関でよく処方されますし、実は(なぜかあまり知られていないようですが)タイレノールは日本の薬局でも購入できます。ですから、私個人の意見をいえば、風邪症状が出現したときには派手なCMをしている総合感冒薬よりもアセトアミノフェンを薬局で買うか、あるいは総合感冒薬に含まれている解熱鎮痛剤がアセトアミノフェンだけのものを使用すべきだと考えています(注1、注2)。

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注1:ただし日本の薬局で買えるアセトアミノフェンは1回に飲んでもいいとされている用量が海外のものと比べて少ないという欠点があります。医療機関でアセトアミノフェンを処方するときは、患者さんの体重、重症度、他に服用している薬などを考慮して適切な量を決定します。

注2:風邪の趣旨から外れるために本文では述べませんでしたが、解熱鎮痛薬はどんな場合でも気軽に飲んでいい薬ではありません。その最大の理由は「依存性」です。特に頭痛で鎮痛剤をたくさん飲んでいる人は要注意で、鎮痛剤の飲み過ぎで頭痛が悪化することがあります。これを「薬物乱用頭痛」と呼び、治療に難渋します。私が院長を務める太融寺町谷口医院には軽症から重症まで頭痛の患者さんがたくさん受診されますが、薬物乱用頭痛の治療が最も困難です。個人的な印象では、鎮痛剤の依存症はニコチン依存症よりもはるかに治療に苦労します。

風邪の秘密シリーズ第1回はこちら

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。