実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

抗菌薬が引き起こす危険な副作用と、「キス病」

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
  • 文字
  • 印刷

知っているようで、ほとんど知らない風邪の秘密【9】

 このコラムの第20回で風邪への抗菌薬使用の注意点を述べました。「抗菌薬は自分の判断で飲んではいけない」「抗菌薬は自己判断で中止すると耐性菌を生み出す可能性がある」「医師も抗菌薬の処方には慎重を期している」ということなどを解説しました。

 今回はその続編です。抗菌薬がなぜ危険か、ということについて副作用を中心に説明し、さらに抗菌薬が病状を悪化させる風邪を紹介します。「どうして抗菌薬ばかり……」と感じる方がいるかもしれませんが、抗菌薬を気軽に考えすぎている人があまりに多い……と日々、臨床を通して私自身が感じているからです。だからしつこいくらいにそのリスクを訴えたいという気持ちがあるのです。

抗菌薬は気軽な薬ではない

 まず、繰り返しになりますが、処方された抗菌薬は大きな副作用が出ない限りは最後まで飲みきることが重要です。では「小さな副作用」なら我慢しなければならないのでしょうか? 答えは「イエス」です。ただし、どこからどこまでを「小さな副作用」と呼べるかは判断が難しい面もありますから、無理をしすぎないようにすべきですが。

 つまり、抗菌薬とは「少々の副作用も我慢しなければならないかもしれない大切な薬」なのです。そして「そんな大切な薬を飲むのだから、薬が必要な理由を患者さん自身が事前にしっかり理解すべきだ」ということを、私は最も言いたいのです。我々医師が抗菌薬を処方するときは、大切な患者さんに副作用が起こるリスクを負っています。患者さんの側としても「副作用が起こるかもしれないけれど大切な薬なんだ。飲み忘れてもいけないし、症状が治まっても最後まで飲まないといけないんだ」ということを理解してほしいのです。

「事前に聞いていない」副作用が起きる可能性は常にある

 もう一つ、あらかじめ理解しておいていただきたい点があります。患者さんの中に「副作用のリスクを全部説明してください」と言う人が時々います。対する私の回答は「できません」です。「そんな無責任な……」と思う人もいるでしょうが、これは「しない」のではなく「できない」のです。頻度の高い副作用、頻度は低いが重要な副作用については“ある程度は”説明します。しかし、すべてを説明することは日常の臨床の現場では絶対にできません。なぜならば副作用の種類が多すぎるからです。たとえば、抗菌薬の代表であるペニシリンの添付文書には副作用の数が50以上も記載されています(注1)。ペニシリンに特に副作用が多いわけではありません。抗菌薬はどのような種類のものであってもこれと同じくらいかそれ以上に副作用があります。それらを逐一説明することは現実的に不可能です。

 ですから「そんな副作用の説明なんて聞いていない」ということは実際に起こりうるのです。では副作用が生じたときは「医師の説明義務違反だ!」と言ってあなたのかかりつけ医を訴えればいいのでしょうか。そうした方がいいときもあるかもしれません。生命にかかわるような副作用が出たとすればそのような選択肢もあり得ますが、ここではより日常的に起こりやすいケースで、対処法を説明しましょう。

すぐに服薬を中止すべき副作用「薬疹」

 まず総論として、抗菌薬の副作用の特徴として3点強調しておきたいと思います。一つ目に、服用後短時間で意識低下、呼吸困難、激しい腹痛といった生命を脅かす危険な副作用が起こりうること。当然、このような場合は救急車を呼ぶなど迅速な対応が必要です。二つ目に、抗菌薬は特定の臓器のみならず、全身にありとあらゆる種類の副作用をもたらす可能性があること(注参照)。三つ目に、種類を問わずあらゆる抗菌薬に共通して起きる頻度の高い副作用があること、です。

 続いて各論です。他の薬剤に比べて、抗菌薬では比較的起こりやすく、起こったとき(あるいはその可能性があるとき)直ちに服薬を中止しなければならない副作用は「薬疹」です。薬疹とは薬のせいで全身に(または一部に)じんましんや湿疹などが出現するものを言います。薬疹の可能性があれば、これくらいなら我慢しようとは絶対に思ってはいけません。直ちに服薬を中止し、できるだけ早くかかりつけ医に連絡しなければなりません。

 発生する頻度は高いが、軽症であれば我慢して服薬を続けてもいい副作用としては、胃症状(胃痛、むかつきなど)、下痢、(女性の)膣(ちつ)カンジダ症などがあります。抗菌薬を使用すると、ターゲットにしている悪い菌だけでなく、人間と共存している常在菌(善玉菌)も殺してしまいます。そのため腸内の善玉菌が死滅して下痢が起こりますし(まれに便秘も起こります)、膣内の常在菌が死んでしまうと周囲にライバルのいなくなったカンジダ(カンジダは細菌でなく真菌=かび=です)が一気に増殖することになります。抗菌薬の処方時には、このような副作用が生じたときの対処法をあらかじめかかりつけ医に聞いておくべきです。

「キス病」は抗菌薬で症状が悪化する

 最後に抗菌薬が症状を悪化させる「風邪」を紹介したいと思います。それは「伝染性単核球症」、別名を「キス病」と言います。EBウイルスという病原体が他人の唾液を介して口腔(こうくう)内に侵入して感染することが「キス病」と呼ばれるゆえんです。

 発症初期の伝染性単核球症は、発熱、咽頭痛、リンパ節の腫れなど他の「風邪」と同じような症状を呈します。そのうち肝機能が悪化し倦怠(けんたい)感が強くなり、特に首の後ろのリンパ節の腫れが顕著になってきます。正確な診断を早い段階でつけることができれば、抗菌薬が投与されることはありませんが、細菌性咽頭(いんとう)炎と誤診され一部の抗菌薬が使われると全身に皮疹が生じることがあります。この皮疹は大変激しく全身が真っ赤に腫れ上がったように見えます。

 伝染性単核球症には特効薬はなく、重症化して入院しても、水分補給目的の点滴くらいしかできることがありません。しかし治癒する病気で特に後遺症を残すこともなく、抗菌薬のせいで生じた皮疹もやがて消えます(注2)。とはいえ、不必要な抗菌薬のせいで全身が真っ赤に腫れ上がるようなことはやはり避けるべきです。

 抗菌薬を自分の判断で飲む行為が、いかに危険かが、おわかりいただけたでしょうか。

   ×   ×   ×

注1:ペニシリンの副作用がいかに多くあるかは添付文書のなかの 副作用の欄を参照ください。これらをひとつひとつ説明することが現実的に不可能であることがおわかりいただけると思います。

注2:EBウイルスに感染しても多くの場合、不顕性感染といって無症状で終わるか、あるいは軽度の感冒症状に終わることが多いのですが、一部はキス病(伝染性単核症)に進展します。また、まれにキス病の症状が長期にわたり持続や再発を繰り返すことがあり、これを「慢性活動性EBV感染症」と呼びます。これは単なる感染症ではなく、リンパの増殖性疾患、つまり一種の血液のがんのようなものと考えられており、予後不良で致死率の高い疾患です。蚊アレルギーを合併することが多く、そのため発見のきっかけが蚊に刺された後の腫れであることもあります。

風邪の秘密シリーズ第1回はこちら

医療プレミア・トップページはこちら

谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト