教養としての診断学

世界を二つに分ければ、見えてくる

津村圭・府中病院総合診療センター長
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 日常生活において皆さんの健康を維持するには、「病気か? 病気でないか?」という二者択一で判断をしていけば、ほぼことが足ります。と、いきなり結論めいたことから書き始めました。前回、現代の医学では膨大な数の病名を作り出して、それぞれの病気の特徴や原因、治療法などを考え、整理していることを紹介しました。医師には、それが必要不可欠ですが、患者さんである皆さんはもっと簡単な方法で十分役に立ちます。それが上記の二者択一、世界の二分法です。そのお話をしましょう(注1)。

 私は小さいころ「おなかが痛い」「足が痛い」など、実に訴えの多い子供でした。医師だった父は決まって「大丈夫、心配ない」と取り合ってくれませんでした。子供心に「なんで!」と思ったこともあったはずですが、父は私の症状から「病気ではない」と判断していたのです。病気でない場合、これ以上の分類の必要がありません。病名を付ける必要もありません。逆に本当に病気だった場合は、治療方法、病気のたどる経過(「予後」といいます)を正確に判断するために、医師の診断を受けることになります。

 健康な人(この場合「病気の存在を自覚していない人」というような意味です)は、特別な症状はなく、健康であることを意識しません。しかし病気の人はいろんな症状で苦しみ、病気のことが常に脳裏にあります(注2)。そして病気がある場合、さまざまな方法で病気を区別し、特定し、名前を決める必要があります。これが診断です。

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津村圭

府中病院総合診療センター長

つむら・けい 大阪府出身。1977年大阪市立大学医学部を卒業後、国立循環器病センター(現・国立循環器病研究センター)に心臓内科レジデントとして勤務。その後の28年間は大阪市立大学医学部教員として、学部学生、大学院学生、研修医、指導医、教員の指導と医学部カリキュラムの企画と作成に携わった。診療面では循環器内科をベースとしつつ、早い時期から原因疾患の判別が困難な症例で、診断を担当する総合診療医として従事。研究面では、各種疾病のリスクファクターについての臨床疫学研究を行い、ランセット(Lancet)など欧米医学誌で発表してきた。2014年1月から現職。総合診療医として地域医療に関わるとともに、初期、後期研修医の指導を担当、臨床研修室顧問も兼任する。地域医療を充実させるため院内に家庭医療専門医後期研修プログラムを立ち上げるなど、診療と教育をリンクさせた活動を現在も続けている。府中病院ウェブサイト