実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

私が風邪をひいたときは--予防と治療の総まとめ

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
  • 文字
  • 印刷

知っているようで、ほとんど知らない風邪の秘密【12】

 これまで11回にわたり、「風邪」について、その定義、原因、重症化し死に至るタイプ、うがい・手洗いの効用、鎮痛薬の使い方、抗菌薬の危険性、インフルエンザの治療薬とワクチンなどについて述べてきました。今回は「風邪」の予防と治療の総まとめを行い、風邪シリーズの最終回にしたいと思います。

予防のカギはうがい、手洗い、マスク、そして規則正しい生活

 他のほとんどすべての疾患と同様、風邪も予防が重要です。そのために必要なのは、第23回「うがいの“常識”ウソ・ホント」、第24回「手洗いの“常識”ウソ・ホント」で述べたようにうがいと手洗いです。特にうがいについては他国にない日本のよき文化ですから、ぜひ日々の習慣にしてください。

 もうひとつ忘れてならない風邪の予防法はマスクです。マスクについてはMERS(中東呼吸器症候群)を取り上げた第2回で述べたように、特に医療機関を受診したり見舞いに行ったりするときには必須のアイテムです。多くの死亡者も出しているMERSもマスクだけで大きくそのリスクを減らすことができるのです。

 そして、風邪の予防に効果があることとして、もう一つ強調しておきたいのが「規則正しい生活」です。「なんだ、そんなこと言われなくたって分かってるよー」という声が聞こえてきそうですが、分かっていても実践できていない人が大勢います。私が診ている患者さんからは「聞き飽きた」とも言われるでしょうが、私は風邪だけでなく多くの病気は規則正しい生活、具体的に言うと「毎日同じ時間に起き、同じ時間に寝る生活」で予防できると考えています。生活習慣病予防にはこれが大切ですし、多くの風邪も間違いなく予防できます(注)。

風邪のひきはじめには「葛根湯」「麻黄湯」がおすすめ

 このように予防策を講じていても、風邪をひくことはあります。そんなときはどうすればいいのでしょうか。第25回「解熱鎮痛剤 安易に使うべからず」では、解熱鎮痛剤はアセトアミノフェンを使うべきだ、と述べました。また、重症化している場合は早急にかかりつけ医に相談すべきです。

 しかし、風邪のごく初期の症状、つまり悪寒や軽度の倦怠(けんたい)感が生じたときは自分の判断で漢方薬を飲むという方法があります。「風邪の初期は葛根湯(かっこんとう)」「ひき始めに葛根湯」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは実は真実を語っており、多くの風邪は初期の段階なら漢方薬の「葛根湯」だけで治ります。特に有効なのは、頭が重い感じがして肩こりを伴っているときです。こんなときに葛根湯を速やかに飲めば、多くの場合、喉の痛みやせきなどの症状が出現することなく治ります。

 葛根湯よりもさらにシャープに効く漢方薬が「麻黄湯(まおうとう)」です。麻黄湯も葛根湯と同じように風邪症状の初期に用います。葛根湯よりも強い効果がある一方で、副作用のリスクがあり、高齢者ややせている人には、不快な動悸(どうき)が生じることがあります。しかし、非常によく効く薬で、インフルエンザでも麻黄湯なら短期間で治すことが期待できます。それに、どんな風邪でも、葛根湯、麻黄湯を飲んでいけないことはなく、安全性も高いと言えます。

葛根(上)と麻黄(下)の生薬(漢方薬の材料になる天然由来の薬)=中村琢磨撮影
葛根(上)と麻黄(下)の生薬(漢方薬の材料になる天然由来の薬)=中村琢磨撮影

 インフルエンザは、診断がつけば第27回「『休めない』人はインフルエンザの薬を使うべきか」で紹介したような特効薬を使えばいいのですが、診断をつけること自体が簡単ではありません。15分くらいで結果が出る簡易キットがありますが、発症後少なくとも半日から1日が経過していないと正確な結果が出ません。私が診察するときは、症状がインフルエンザを示唆するようなもの、つまり悪寒と倦怠感が強く高熱があり(ただし熱は出ない場合もあります)、そのわりには咽頭(いんとう)痛やせきが少ないといった症状が見られれば、検査をおこなわずに麻黄湯とアセトアミノフェンの処方をすることがあります。一方、インフルエンザが大流行しているときや、患者さんが高齢者や小児に接する仕事をしている場合は、(リレンザやイナビルなど)インフルエンザの薬を勧めることもあります。

市販の総合感冒薬は不要

 ここで、私自身が実践している葛根湯や麻黄湯の飲み方のコツを紹介したいと思います。ただし、あくまで参考情報として読んでください。私は、一番よく状態を把握している私自身の体に対して処方しています。気軽にマネをすると予期せぬ副作用が生じる可能性があります。試してみたいと思われたら、かかりつけ医にまず相談してください。

 そのコツですが、「早い段階で大量に飲む」ことです。早ければ早いほど有効です。私は、まだ熱はないけれどなんとなく体がだるい、悪寒とまではいえないけれどなんとなく体の芯が冷えるような気がする、なんとなく喉に違和感がある、という段階で、麻黄湯を通常の処方より多く飲みます。さらに頻度も高く、1日3回以上飲みます。この「少しでも風邪を疑えば麻黄湯を多めに服用+鼻うがい(第23回の注釈で紹介しました)」で、私自身はほぼ風邪をひくことはなくなりました(といっても鼻うがいは実践を始めてまだ2年ですが)。

 最後に、漢方薬以外の風邪薬について述べておきます。風邪の原因病原体が分からないときに、薬局の風邪薬を安易に飲むべきではありません。第25回で述べたように、その風邪がインフルエンザであれば、アセトアミノフェン以外の鎮痛薬を飲むのは危険です。また鎮痛剤としてアセトアミノフェンを使っている風邪薬であっても、他の成分の副作用のリスクにも注意する必要があります。市販の風邪薬に鼻水を止める目的で加えられている抗ヒスタミン薬はほとんどが眠くなります。薬局で買える、眠くならない抗ヒスタミン薬もありますが、風邪治療目的では販売できないことになっており、価格も安くありません。

 私はいわゆる「総合感冒薬」は不要だと思っています。私自身、医学部4年生のころからは(つまり風邪の正しい知識を得てからは)市販の総合感冒薬を一切飲んでいません。風邪のときに私が飲む薬は、麻黄湯とアセトアミノフェン、それに鼻水が強いときは眠くならない抗ヒスタミン薬くらいです。細菌性の風邪であれば抗菌薬を飲みますが、細菌性の風邪はあまりありませんから過去に2回飲んだことがあるだけです。

 以上、合計12回にわたり「風邪」について解説してきました。これらの内容は、日ごろの診療での患者さんとの会話を通して「多くの人に伝えたい」と考えるようになったことです。そういう意味で、私は日々の患者さんから学ばせてもらっているといえます。風邪は奥が深い……。たかが風邪、されど風邪、なのです。

   ×   ×   ×

注:最近興味深い研究が発表されました。米国ピッツバーグ在住の健康な男女164人の鼻腔にライノウイルスという風邪のウイルスを注入し、その後5日間ホテルで隔離して風邪症状を呈するかどうかを確認し、睡眠時間によるリスク評価がおこなわれたのです。その結果、睡眠時間7時間の人に比べると、5~6時間の人は風邪をひくリスクが4.2倍に、5時間未満の人は4.5倍にもなったのです。「Behaviorally Assessed Sleep and Susceptibility to the Common Cold」という論文で、概要はここで読めます。

風邪の秘密シリーズ第1回はこちら

医療プレミア・トップページはこちら

谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。