朝食を食べて体内時計をリセットしましょう、と私たち体内時計研究者はよく言います。皆さんも聞いたことがあるでしょう。このキャッチフレーズ、なぜ昼食でも夕食でもなく、朝食なのでしょうか? また、朝に何を食べればいいのでしょうか? 今回から体内時計と食の深い関係について順次紹介し、これらの疑問に答えていきたいと思います。

 さて、毎日決まった時刻にしか餌をもらえない環境でマウスを飼育すると、そのマウスは餌がもらえる時刻の数時間前から行動し始めるようになります。この行動は毎日正確に行われ、体内時計によって餌の時刻を察知する能力があるようです。この現象は古くから知られており、いわゆる「腹時計」が本当に存在しているのではと考えられてきました。また、このような環境で飼育したマウスの体内時計は、食事の時刻に合わせて昼と夜のリズムが変化します。自然環境に生きるマウスは夜行性で夜、餌を取りますが、明るい時間にだけ餌をもらう環境が続くと、明るくても行動するようになります。また、体温リズムやホルモンリズムも変化します。つまり、体内時計は食事時刻の変化に合わせて、時刻調節を行うのです。それは生きるうえで重要な餌の確保のためであり、体内に入ってくるだろう食事の消化・吸収・代謝の準備のためでもあります。

 上述の実験で、1日1回の食事を朝食(マウスが活動を開始する時)、または夕食(マウスが寝始める直前)に固定し、体内時計の時刻を比べてみました。すると毎日、朝食だけ食べているマウスの体内時計は、自然な状態よりも少し早い時刻に変化しました。一方、夕食だけを食べているマウスの体内時計は、約3時間と大きく遅れました。朝食には体内時計を前進させる効果、夕食には後退させる効果があることが分かります。

 しかしこの結果を、私たち人間にそのまま当てはめることはできません。通常、私たちは1日3食が一般的です。その場合は、朝食の前進効果と、夕食の後退効果が差し引きされて、体内時計の時刻は大きく変化しません。またそもそも体内時計への刺激は、1日1食よりも1日3食だと弱くなります。さらに昼食だけを食べるマウスでの1日1食実験では、朝食、夕食と異なり体内時計は大きく変化しないことが分かっています。

この記事は有料記事です。

残り1523文字(全文2458文字)

柴田重信

早稲田大学教授

しばた・しげのぶ 1953年生まれ。九州大学薬学部卒業、薬学研究科博士修了。九州大学助手・助教授、早稲田大学人間科学部教授などを経て、2003年より早稲田大学理工学術院教授。薬学博士。日本時間生物学会理事、時間栄養科学研究会代表。時間軸の健康科学によって健康寿命を延ばす研究に取り組む。専門は時間栄養学、時間運動学とその双方の相乗効果を健康に活かす商品・プログラム開発。田原助教との共著に「Q&Aですらすらわかる体内時計健康法-時間栄養学・時間運動学・時間睡眠学から解く健康-」(杏林書院)。

田原優

カリフォルニア大学ロサンゼルス校助教

たはら・ゆう 1985年生まれ。早稲田大学理工学部、同大学大学院先進理工学専攻卒業。博士(理学)。早稲田大学助手を経て、2015年より早稲田大学高等研究所助教、17年1月よりカリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部助教。07年より、柴田重信教授と共に、時間栄養学研究の確立に取り組んできた。また、発光イメージングによるマウス体内時計測定、ストレスによる体内時計調節などの成果も発表している。常にヒトへの応用を意識しながら、最先端の基礎研究を行っている。柴田教授との共著に「Q&Aですらすらわかる体内時計健康法-時間栄養学・時間運動学・時間睡眠学から解く健康-」(杏林書院)。