実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

性感染症・尖圭コンジローマ 心身に及ぶ治療の難しさ

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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理解してから接種する−−「ワクチン」の本当の意味と効果【12】

 性器にできるイボにはさまざまなものがあり、なかには一目見た瞬間に悪性腫瘍を疑うべきものもあれば、病気とは呼べない単なる腫瘤(しゅりゅう)という場合もあります。一部の種類のヒトパピローマウイルス(HPV)によって起きる性感染症、尖圭(せんけい)コンジローマは、性器のイボを診たときには必ず鑑別に加えるべきもので、私の印象で言えば、「性器にイボができた」と受診される人の約3割がこの病気です。尖圭コンジローマは病理学的には「良性の腫瘍」ですが、だからといって放置していいわけではありません。自然消失はなくはないものの、期待はできません。まれですが巨大化して悪性化したという報告もあります。それに、何よりも他人に感染させるリスクがあります。

患者のメンタルケアが重要

 程度にもよりますが治療に時間がかかり、いったん消失しても再発の可能性があり、特に女性の場合は膣(ちつ)内にできたかどうか(再発も含めて)は自分でまったく分からないという厄介な特徴を持つ疾患です。患者さんはたいてい精神的にもつらくなってきますから、診断を告げるときにはそれなりに時間を取ります。経験上、この疾患は診断を告げるときのこの時間(「カウンセリング」という表現が適切かもしれません)が治療そのものよりも重要です。

 そういう疾患だからこそ「誤診」はあってはなりません。どのように診断しているかというと、ある程度進行した例は典型的な症状を呈するため、見間違えることはありません。ただ、初期の段階や、非典型例となると判断に迷うことがあります。鑑別に挙げる(比較対象として考える)べき疾患は、(1)扁平(へんぺい)コンジローマ、(2)ボーエン病、(3)ボーエン様丘疹症、(4)尋常性疣贅(ゆうぜい)、(5)伝染性軟属腫、(6)膣前庭乳頭腫症、(7)ファオダイス状態、などがあります。

尖圭コンジローマと鑑別すべき疾患

 (1)は梅毒の一症状です。この疾患を疑えば血液検査で梅毒抗体を調べます。(2)は皮膚や粘膜の表皮内部にできるがん(悪性腫瘍)の一つで、疑いがある場合は皮膚/粘膜の一部を切除して調べる病理検査を行います。(3)も(2)と同様に病理検査をおこない、電気焼灼(しょうしゃく)など外科的に治療するのが一般的です(注)。(4)(5)はときに尖圭コンジローマと鑑別が困難で、病理検査を行うこともある疾患です。(4)は尖圭コンジローマとは別のタイプのHPVが原因の感染症。(5)は通称「水イボ」といわれ、子供がプールで感染することがよく知られていますが、性器にできると尖圭コンジローマと見分けがつかなくなることがあります。(6)は女性、(7)は男性にできるものですが、これらは放置しておいていいものです。まれに尖圭コンジローマと鑑別がつかずに病理検査をおこなうこともあります。

 少し医学の教科書みたいに難しくなってしまいました。診断が難しそう……と感じた人もいるかもしれませんが、実際には、尖圭コンジローマの大半は視診だけで、つまり見ただけで診断がつきます。

 視診をおこなうときに重要なのは他の部位にもできていないかを確認することです。たとえば女性の外陰部に見つけた場合は肛門周囲も確認し、さらに膣内を診察し、膣壁や子宮頸部・子宮膣部まで診なければなりません。男性の場合は、陰茎のみならず、尿道の入り口、陰茎の付け根や陰嚢(いんのう)、肛門周囲まで確認します。

 性器周辺だけでなく、肛門の粘膜まで確認するのは、ウイルス(HPV)が体液(膣分泌液や精液)に混じり、体液が皮膚をつたって肛門粘膜にたどり着いて、根を下ろすことがあるためです。時折、肛門に尖圭コンジローマができるのは肛門性交をしたからだ、という誤解があります。医療者の中にもそう思っている人がいますが、文字通り「誤解」です。

治るけれど「大したことはない」ではない

 前回も述べたように、この疾患で最も理解してほしいことは「治る感染症」だということです。にもかかわらず、前回例に取り上げた女性患者のように「前の病院では治らないと言われた……」と言って受診する人がいます。これは、患者さんが動転してしまって「簡単には治らないこともある」と聞いたのを勘違い、早とちりしてしまっているのだと思われます。

 しかし「治る感染症」ということを楽観的に強調しすぎるのもいけません。「大したことがない病気」では決してありません。むしろそれなりに大変な感染症なのです。その最大の理由は「いつ治るかがわからない」ということです。「いつになったら、この苦痛から解放されるのでしょうか」。これがときどき患者さんから聞く言葉です。いったん消失したと思ったら、1カ月後に別の部位に再発した、という例がよくあります。なかには消失から半年が過ぎようとするころに再発することもあります。いったいいつになれば「完全治癒」と見なせるのでしょうか。

 この答えは簡単ではありませんが、「完全消失して6カ月経過すれば再発はまずない」と私は伝えています。完全消失してもその後1〜2カ月は約半数の人が再発します。しかし再発すれば治療を再開し、また再発すれば再び治療し……と続けていけばいずれ完全に治ります。大切なのはこの半年間は部位によっては無症状でも定期的に医療機関を受診して再発の有無を診てもらわなくてはならないことです。特に女性の膣内の再発は自分では分かりません。

 次回は治療法についてお話しします。

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注:本文では言及しませんでしたが、(2)ボーエン病、(3)ボーエン様丘疹症もHPVが関与した腫瘍性疾患です。ただし尖圭コンジローマの原因となるHPVとはタイプが異なります。

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。