性器のイボ、尖圭コンジローマの治療法は

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 治る病気とはいえ、ときに治療に時間がかかり、再発を繰り返すこともあるやっかいな性感染症、尖圭(せんけい)コンジローマの治療についてみていきましょう。

 日本性感染症学会のガイドライン上も(注1)、私の経験からも、最も推薦できるのは「液体窒素療法」です。これはマイナス196度の液体窒素を、綿棒などを用いてイボそのものに塗布する治療法です。マイナスといっても、実際に感じるのは「冷たさ」ではなく「痛み」です。ただし、麻酔を必要とするほどは痛くありません。その上、費用も安くつき、少々強く塗布しても瘢痕(はんこん)になるほどではありませんので最初に試すには最適です。また、液体窒素の利点として、部位がどこであっても治療できるということもあります。つまり、男性であれば陰茎、陰嚢(いんのう)、肛門、尿道口のどこにでも使えますし、女性の場合も、外陰部、会陰部(膣と肛門の間)、肛門、膣壁、子宮頸部・膣部のどこにでも塗布できます。

通院が必要だけど、推奨は「液体窒素療法」

 イボが小さければ1 度の治療で治ることもあります。しかし、通常は何度か繰り返し行うことになります。1〜2週に1度通院してもらい治療を繰り返します。3割負担であれば、再診となる2回目以降に患者さんが窓口で支払う医療費は1000円程度です。ちなみに、前々回に例として取り上げた女性(山岡彩花さん=仮名)の場合、合計4回の治療でイボは完全消失し、その後半年が経過しても再発しなかったために「完全治癒」と判断しました。診察室でにっこりほほえんだ彼女は「実は新しいカレシができたんです。今はまだプラトニックな関係だけど、これから発展しそうです!」と話していました。

2007年登場の塗り薬は粘膜に使えないのが欠点

 次に推薦できるのが「イミキモド(商品名・ベセルナクリーム)」という塗り薬です。これは2007年に登場した比較的新しい外用薬です。この薬の利点は、高い効果が期待できること、自宅で治療できること(液体窒素療法は通院しなければなりません)、治療後の瘢痕が残らないこと、などです。欠点は、保険適用されるとはいえ費用が少し高いこと(3割負担、2週間分の処方で3000円弱)、副作用が少なくないこと、粘膜には使えないこと、などです。副作用は軽症のものも含めれば半数程度の人に表れます。ほとんどは塗った部分が痛くなったり、ただれたりといった皮膚症状だけですが、なかには全身倦怠(けんたい)感や発熱といったインフルエンザに似たような症状が表れることもあります。

イミキモド(商品名・ベセルナクリーム)
イミキモド(商品名・ベセルナクリーム)

 粘膜に使えない、というのは特に女性にとっては大きな欠点と言えます。なぜなら、女性の場合、出現部位が外陰部の表皮部分や肛門周囲に限局していればいいのですが、多くのケースで膣の入り口付近の粘膜、さらには膣壁や子宮にまで病変が波及していることが多いからです。粘膜に使うとどうなるかというと、かなりの確率で激しい痛みやただれが出現します。男女とも、肛門粘膜にできたときも用いることができません。

電気やレーザーで“焼く”治療は、治療痕が難点

 液体窒素療法もイミキモドも、ただ一度の治療でイボが消失することはほとんどありません。ほとんどの場合、何度かは再診が必要になります。これらに対し、一度の治療で完全に消失させることができる治療法もあります。それは電気焼灼(しょうしゃく)やレーザー治療です。これらは麻酔が必要ですし、部位によっては1泊程度の入院も必要になりますが、一度の治療で治すことができます。ただし、欠点もあります。それは、治療による瘢痕が残ることです。この病気が一度で治るなら瘢痕くらいかまわない、と思う人もいるかもしれませんが、尖圭コンジローマの特徴は「再発が多い」ということです。瘢痕をつくって再発して、また瘢痕をつくって……、というのを繰り返していると「見た目」がみにくくなっていくことがあります。

 その他の治療法としては、山岡彩花さんの例で出てきた「外用抗がん剤」もあります。これはイミキモド以上に痛みやただれなどの副作用が強く、使用が簡単ではありません。また、ポドフィリン溶液、トリクロロ酢酸溶液、ジクロロ酢酸溶液などの「腐食剤」も使われることがあります。腐食剤は「薬」というよりは「劇物」であり、文字通りイボを腐食させて取り除くという治療です。私はタイのエイズホスピスでボランティア医師をしていたころ、その施設には液体窒素もイミキモドもなかったために、腐食剤を用いて尖圭コンジローマの治療をしていました。量が少ないと効かず、少し強く塗布するとすぐに潰瘍(ただれ)を作ってしまうため、さじ加減が非常に難しかったことを覚えています。

推奨の治療法が行われない意外な理由

 さて、ガイドラインの上でも私の経験でも液体窒素療法とイミキモドがまず勧められるべきなのですが、前々回の二つの例でも紹介したように、実際には他の治療法が行われていることがよくあります。なぜなのでしょうか。一つには、ガイドラインがさほど普及していない、ということがあるかもしれません。たとえば山岡彩花さんの時は、外用薬を使うなら、抗がん剤よりもイミキモドを先に使ってもよかったのではないか、と思いました(しかし私の前に治療をした医師には何らかの考えがあったのでしょうから、私はその医師が間違っていると言っているわけではありません)。

 液体窒素がさほど使われていないことには理由があります。それは液体窒素を置いている医療機関は、「皮膚科」専門のところか、太融寺町谷口医院のように「総合診療」を行なっている一部のクリニックに限定されるからです。婦人科クリニックで液体窒素を置いているところは多くありません。男性の患者さんは症状が性器にできることから皮膚科には行かず、最初に泌尿器科を受診することがあり、泌尿器科には液体窒素を置いていないところが多いので、この治療法が行えないのです。女性の場合でも、外陰部は皮膚科で治療ができても、膣内や子宮の診察には対応できないことがあります。

複合的な治療が必要な性感染症の診療は「総合診療医」が適任

 ちなみに欧米諸国では、総合診療(通常「GP」と呼びます)のクリニックが液体窒素療法を行い、ある程度の婦人科疾患も診ます(分娩=ぶんべん=まで行うことも多い)。そもそも欧米では、HIVやB型肝炎なども含めて総合診療医が性感染症を診察するのが一般的で、尖圭コンジローマも当然治療するのです。皮膚科、泌尿器科、婦人科などの専門科を受診する必要はありません。

 日本でも少しずつ欧米に近づいてきており、総合診療関連の学会や研究会では性感染症がしばしば取り上げられます。性感染症は複数の種類が感染している「重複感染」が多く、パートナーの診察も不可欠で、尖圭コンジローマのようにメンタルケアも必要なことがありますから、多臓器を多角的に診察する総合診療医がまずは「窓口」になるべきなのかもしれません(注2)。

 次回は尖圭コンジローマに関係のある難治性の小児科疾患を取り上げたいと思います。

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注1:尖圭コンジローマのガイドラインは日本性感染症学会以外に、日本産科婦人科学会にもあり、こちらはイミキモド(ベセルナ)クリームが第一選択、液体窒素療法は「その他」に分類されています。しかし本文でも述べているように、粘膜部位にはイミキモドを使うことはできません。

注2:最近、性感染症とうつ病の興味深い関係が報告されました。うつ病のエピソードがある成人は、そうでない人より性感染症に罹患(りかん)しやすく、総合診療の領域でうつ病の介入をすることにより性感染症のリスクを下げることができる、というのが研究の趣旨です。医学誌「Preventive Medicine」(オンライン版)16年7月号掲載の論文によると、米国の成人18000人以上を対象とした研究で、うつ病のエピソードがあると、男性で2.23倍、女性は1.61倍、性感染症のリスクが上昇し、うつ病に介入することによりリスクを45%も減少させることができるとしています。

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