いつも遅れがちな私たちの体内時計は、朝食を食べることで時刻調節することができます。そのメカニズムの一つとして、血糖値低下作用をもつホルモン「インスリン」の時計遺伝子への作用について前回紹介しました。さて、昔からよく「夜食は太る」と言いますね。それはどうしてでしょうか? また、体内時計は肥満になると変化するのでしょうか? では、説明していきましょう。

 胃・小腸、大腸、肝臓、脂肪などの食物の消化・吸収・代謝に関わる臓器では、体内時計はそれぞれの臓器の機能に合わせて働いています。例えば、胃や小腸では消化酵素や胆汁酸の働きに日内リズムが存在します。また、小腸における栄養素の吸収にも日内リズムが存在し、一般的に吸収は夜よりも朝に高くなります。これは小腸で腸管から血中に栄養素を輸送する役割を担うトランスポーターと呼ばれるたんぱく質の働きが朝と夜で異なるからです。肝臓は糖や脂質、さらには薬物の代謝など多くの機能を担っています。最近の研究では、そのほとんどの機能も活動に昼夜差があることが分かってきました。その調整は肝臓にある時計遺伝子が担当しています。

 脂肪細胞では、時計遺伝子の一つである「Bmal1(ビーマルワン)」が脂肪蓄積のスイッチを制御しています。つまりBmal1が無いと脂肪は増えず、Bmal1が多いと脂肪は増えやすくなります。ヒトではBmal1は夜に高くなるので、朝よりも夜の方が、脂肪がつきやすい状態なのです。「夜食は太りやすい」という話は、Bmal1による脂肪蓄積の働きに昼夜差があるからで、科学的にも正しいと言えます。

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柴田重信

早稲田大学教授

しばた・しげのぶ 1953年生まれ。九州大学薬学部卒業、薬学研究科博士修了。九州大学助手・助教授、早稲田大学人間科学部教授などを経て、2003年より早稲田大学理工学術院教授。薬学博士。日本時間生物学会理事、時間栄養科学研究会代表。時間軸の健康科学によって健康寿命を延ばす研究に取り組む。専門は時間栄養学、時間運動学とその双方の相乗効果を健康に活かす商品・プログラム開発。田原助教との共著に「Q&Aですらすらわかる体内時計健康法-時間栄養学・時間運動学・時間睡眠学から解く健康-」(杏林書院)。

田原優

カリフォルニア大学ロサンゼルス校助教

たはら・ゆう 1985年生まれ。早稲田大学理工学部、同大学大学院先進理工学専攻卒業。博士(理学)。早稲田大学助手を経て、2015年より早稲田大学高等研究所助教、17年1月よりカリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部助教。07年より、柴田重信教授と共に、時間栄養学研究の確立に取り組んできた。また、発光イメージングによるマウス体内時計測定、ストレスによる体内時計調節などの成果も発表している。常にヒトへの応用を意識しながら、最先端の基礎研究を行っている。柴田教授との共著に「Q&Aですらすらわかる体内時計健康法-時間栄養学・時間運動学・時間睡眠学から解く健康-」(杏林書院)。