Dr.林のこころと脳と病と健康

「かわいそう」だから引きこもりの治療を拒否する悲劇

林公一・精神科医
  • 文字
  • 印刷
絵=画家・絵師 OZ-尾頭-山口佳祐(http://oz-te.com)
絵=画家・絵師 OZ-尾頭-山口佳祐(http://oz-te.com)

 あっても利用しなければ、ないのと同じです。

 かつて、統合失調症には治療法がありませんでした。統合失調症になったら、悪化するばかりでした。今は有効な治療法があります。けれども治療を受けなければ、治療法がない時代と同じです。悲惨な経過をたどります。今回ご紹介するのは、現代におけるそんな悲しいケースです。最初に見られた変調は引きこもりでした。妹さんのお話です。

 --兄は高校3年生のころから不登校になって、自分の部屋に引きこもるようになってしまいました。昼間から雨戸を閉め、電気もあまりつけず、部屋を暗くしているようでした。家族との会話もほぼないのですが、たまにひとことふたこと話す時には、「外から見られているから閉め切っている」というようなことを言っていました。また、夜中に一人で笑っていたり、誰かと会話したりしているような声が聞こえたこともありました。食事も自分の部屋で、それも気の向いた時に好きな物だけを食べるという状況で、どんどん太ってゆきました。歯磨きはせず、風呂には月に1回入るかどうかというありさまでした。そんな兄のことを両親は「受験のストレスでかわいそう」と言って、兄の言うままに物を買ってくるなどしてあげていました。

この記事は有料記事です。

残り2088文字(全文2604文字)

林公一

精神科医

はやし・きみかず 精神科医、医学博士。著書に「統合失調症という事実」「擬態うつ病/新型うつ病」「名作マンガで精神医学」「虚言癖、嘘つきは病気か」など。ウェブサイト「Dr.林のこころと脳の相談室」は、読者からの質問に林医師が事実を回答するもので、明るい事実・暗い事実・希望の持てる事実・希望の持てない事実を問わず、直截に回答するスタイルを、約20年にわたり継続中。