無難に生きる方法論

「丁寧な診察」は理想だけれど…

石蔵文信・大阪大学招へい教授
  • 文字
  • 印刷

 ある新聞に知り合いの先生の記事が載っていた。関東の大学の精神科で教授としてうつ病や自殺問題などに熱心に取り組んでおられ、お会いする機会も多かった。記事によると、最近退官され東京都内で診療を始めたそうだ。この元教授は患者さん1人に1時間かける丁寧な診察を行い、次々と患者さんを回復させているらしい。

 精神科治療、特にうつ病や不安障害の治療には、薬物療法と同じくらい認知行動療法のようなカウンセリングも重要とされる。しかし、医師が長い時間をかけてカウンセリングをしても診療報酬は増えないこともあり、薬物中心の短時間診察になってしまいがちである。元教授は「5分診療で薬物偏重」と批判される精神科医療に危機感を強めて利益にこだわらない診察を始め、多くの患者さんを回復させているというから素晴らしい。

 しかし、同じような丁寧な治療を心掛けている私には気がかりな点が三つある。

 まずはご本人も認めておられる“利益にこだわらない”診察である。精神科の診療報酬はきわめて低い。初診の通院・在宅精神療法は30分以上で4000円、30分未満で3300円、再診となると標準型精神分析療法は3900円請求できる。ちなみに私は精神科医ではないので心身医学療法の初診は1100円、再診は800円しか請求できない。これに一般的な初診料が2820円、再診料が720円である。その他いろいろと請求で…

この記事は有料記事です。

残り1194文字(全文1777文字)

石蔵文信

大阪大学招へい教授

いしくら・ふみのぶ 1955年京都生まれ。三重大学医学部卒業後、国立循環器病センター医師、大阪厚生年金病院内科医長、大阪警察病院循環器科医長、米国メイヨー・クリニック・リサーチフェロー、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻准教授などを経て、2013年4月から17年3月まで大阪樟蔭女子大学教授、17年4月から大阪大学人間科学研究科未来共創センター招へい教授。循環器内科が専門だが、早くから心療内科の領域も手がけ、特に中高年のメンタルケア、うつ病治療に積極的に取り組む。01年には全国でも先駆けとなる「男性更年期外来」を大阪市内で開設、性機能障害の治療も専門的に行う(眼科イシクラクリニック)。夫の言動への不平や不満がストレスとなって妻の体に不調が生じる状態を「夫源病」と命名し、話題を呼ぶ。また60歳を過ぎて初めて包丁を持つ男性のための「男のええ加減料理」の提唱、自転車をこいで発電しエネルギー源とする可能性を探る「日本原始力発電所協会」の設立など、ジャンルを超えたユニークな活動で知られる。「妻の病気の9割は夫がつくる」「なぜ妻は、夫のやることなすこと気に食わないのか エイリアン妻と共生するための15の戦略」など著書多数。