Dr.堀江重郎の健康羅針盤

がん創薬に「消費者」の視点を

堀江重郎・順天堂大学教授
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 11月初め、パリで開催された国際対がん連合(UICC)の世界大会である「国際がん会議(World Cancer Congress)」で講演をしてきました。UICCは元々、がんの基礎研究の成果を発表する場です。日本の病理学者、吉田富三博士(1903~73年)が、ラットの腹水に浮かぶがん細胞を発見し、世界で初めてがんを細胞単位で研究することを可能にした「吉田肉腫」の研究など、多くの歴史的な発見がこのUICCから世に送り出されてきました。また患者さんに関係の深い成果としては、がんの病期(ステージ)を表す世界共通のコードであるTNM国際分類を作成するという大きな仕事も、UICCが行ったものです。国際がん会議は、2年に1度開かれます。世界保健機関(WHO)関係者や各国のがん学会の代表、医療政策の専門家、がん患者の支援団体や禁煙に関する運動を展開する団体まで、さまざまな立場で健康にかかわる人たちが大勢参加し、がん撲滅について熱心に討議する場になっています。今年の大会初日には開催国フランスのオランド大統領が登壇し、がん対策についてのスピーチを行って、大いに盛り上がりました。

 がんは先進諸国の問題と思われがちですが、発展途上国においても人口の高齢化から、患者が増加しています。高額な費用がかかるがん医療を、医療保険が十分でない国でどう進めていくか、以前このコラムでもお伝えしたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage:UHC)も、今回の大会の重要な話題でした。そんな中、数あるセッション(会議)でもユニークだなと感じたのは、製薬企業と患者団体が直接「創薬」について話し合うものです。まだ日本では一般的ではない取り組みですね。そこで今回はこのセッションで交わされた議論を紹介しつつ、「患者が参加する創薬」について考えてみましょう。

 製薬企業の業界団体、日本製薬工業協会のウェブサイトには、「研究開発型製薬企業の使命は、新薬の継続的な創出と安定的な供給を通じて、世界の医療と人々の健康に貢献し『患者参加型医療』の実現に寄与すること」という文言があります。さらに「新薬の創薬段階から市販後における医薬品の適正使用推進や安全対策に至るまで、医薬品と患者さんが関わるあらゆる場面において、患者さんやそのご家族のニーズや悩みを理解して対応し…

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堀江重郎

順天堂大学教授

ほりえ・しげお 順天堂大学大学院教授、泌尿器科医。1960年生まれ。東京大学医学部卒業。日米で医師免許を取得し、国立がんセンター中央病院などを経て、42歳で帝京大学医学部主任教授に就任。日本初の男性外来であるメンズヘルス外来を開設。2012年より現職。手術ロボット・ダヴィンチを駆使した前立腺、腎臓手術のトップランナーであると同時に、アンチエイジングと男性医学、腎臓学の研究に没頭している。中高年男性をハツラツとさせるのが生きがい。日本メンズヘルス医学会理事長、日本抗加齢医学会副理事長。著書に「ヤル気がでる!最強の男性医療」(文春新書)、「男性の病気の手術と治療」(かまくら春秋社)ほか。