この連載の第8回「体内時計がもたらす女性特有の不調」から、私たちと同じく体内時計の専門家である明治大学農学部の中村孝博先生に、ヒトのライフサイクルのステージごとに起きる体内時計の変化や、それに伴う身体的不調についてお聞きしています。今回は中村先生にお話を伺う最終回、「世界一周するなら西へ向かえ」と題して、海外(時差)旅行と私たちの健康について伺いました。

 最近、都会の街を歩いていてよく感じるのは、外国人が増えたということです。観光庁の統計によると、2015年の外国人入国者数は約2000万人で、この10年間で3倍近くにまで増えています。一方、日本人の海外への出国者数は年間1600万~1700万人で変わらず推移しており、この10年で大きな変動はありません。しかし、年齢別に見てみるとシニア世代の旅行者は大きく増加しています。日本旅行業協会の調べでは、全年齢層の旅行者における60歳以上の旅行者数は、この10年で15.6%から18.2%と2.6ポイントも上昇しています。

 日本では団塊の世代の退職により、お金と時間を持ち合わせているシニア世代の海外旅行が増えていると言われていますが、この数字はそのことを裏付けています。日本の経済を考えても良い傾向ですし、シニア世代が活動的という証拠でもあり、健康維持にも良いことだと考えられます。しかし、体内時計を研究する時間生物学者の立場からは時差が生じる海外旅行はあまり勧められません。その理由について順を追って解説します。

この記事は有料記事です。

残り3136文字(全文3770文字)

柴田重信

早稲田大学教授

しばた・しげのぶ 1953年生まれ。九州大学薬学部卒業、薬学研究科博士修了。九州大学助手・助教授、早稲田大学人間科学部教授などを経て、2003年より早稲田大学理工学術院教授。薬学博士。日本時間生物学会理事、時間栄養科学研究会代表。時間軸の健康科学によって健康寿命を延ばす研究に取り組む。専門は時間栄養学、時間運動学とその双方の相乗効果を健康に活かす商品・プログラム開発。田原助教との共著に「Q&Aですらすらわかる体内時計健康法-時間栄養学・時間運動学・時間睡眠学から解く健康-」(杏林書院)。

田原優

カリフォルニア大学ロサンゼルス校助教

たはら・ゆう 1985年生まれ。早稲田大学理工学部、同大学大学院先進理工学専攻卒業。博士(理学)。早稲田大学助手を経て、2015年より早稲田大学高等研究所助教、17年1月よりカリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部助教。07年より、柴田重信教授と共に、時間栄養学研究の確立に取り組んできた。また、発光イメージングによるマウス体内時計測定、ストレスによる体内時計調節などの成果も発表している。常にヒトへの応用を意識しながら、最先端の基礎研究を行っている。柴田教授との共著に「Q&Aですらすらわかる体内時計健康法-時間栄養学・時間運動学・時間睡眠学から解く健康-」(杏林書院)。